提示された示談金額が低すぎると感じる
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
提示された示談金額が低すぎると感じたら…
- 保険会社の提示額は、本来認められる金額より少ないことが一般的です。
- 示談金額が妥当かどうか、弁護士が正しい金額を計算します。
- 弁護士に保険会社との交渉を依頼すると、示談金の増額が期待できます。
交通事故の加害者やその保険会社から提示された損害賠償金(示談金)の金額が低すぎると不満を感じる方は少なくありません。
この記事では示談金の計算に使う基準について説明するとともに、提示された金額に不満がある場合の対応について詳しく解説します。
0.提示された示談金額は、増額できる可能性がある
ケガが完治したり、後遺障害の等級認定が確定したりすると、交通事故の加害者側の保険会社との示談交渉が始まり、慰謝料などの損害賠償の金額(示談金額)が提示されます。
保険会社から示談金額が提示された場合、すぐに示談してしまうことは避けてください。
なぜなら、保険会社から提示される金額は、本来認められるはずの金額よりも少ないことが一般的だからです。
賠償金額を計算する方法には、3種類の基準があり、どの基準を使って計算するかにより金額が大きく異なります。
保険会社は、自社の定める支払い基準にもとづいて賠償金額を計算しており、提示された金額を受け入れると、損をしてしまう可能性があるのです。
1.損害賠償金の計算に使う3つの基準とは?
損害賠償金を計算する方法として、次の3種類の基準があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判所基準)
そして、それぞれの基準によって計算された賠償金額は、次のような順番で大きくなります。
弁護士基準(裁判所基準) > 任意保険基準 ≧ 自賠責基準
1-1.自賠責基準
自賠責基準は、加害者の自賠責保険会社が慰謝料などの賠償金を計算する際に使う基準です。
自賠責保険は、交通事故における被害者の最低限度の補償を目的としているため、賠償金の金額は3種類の基準の中で最も低額となります。
自賠責保険の仕組みや補償内容などについては、次のコラムで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
1-2.任意保険基準
任意保険基準は、加害者の任意保険会社が賠償金を計算する際に使う基準です。
保険会社が自社の支払基準により独自に定めているため、その基準は公開されていませんが、自賠責基準で計算した金額と同等程度であるケースが多いです。
1-3.弁護士基準(裁判所基準)
弁護士基準は、弁護士が加害者側に損害賠償を請求する際に利用する基準です。
裁判所でも同様の基準が使われることから、「裁判所基準」と呼ばれることもあります。
弁護士基準は、交通事故の示談交渉や裁判において、実際に請求が認められた金額を基準にしているため、3種類の基準の中では最も高額になります。
2.基準によってどのくらいの金額差になる?
計算に用いる基準によって、賠償金額にどれくらいの差が出るのでしょうか?
最も低額になる自賠責基準と、最も高額になる弁護士基準で休業損害や慰謝料、逸失利益の金額を計算し、どの程度の差があるのか比べてみましょう。
保険会社が計算に使う任意保険基準は、各社が独自に定めたものですが、自賠責基準と同等程度であるケースも少なくありません。
弁護士基準で計算した金額を踏まえ、保険会社が提示した金額から、どれくらい増額できる見込みがあるか、参考にしてみてください。
2-1.休業損害の比較
交通事故によるケガの治療で仕事を休んだことで収入が減少した場合、減少分を補償するお金として休業損害を請求することができます。
自賠責基準では、休業損害を次のように計算します。
1日あたり6,100円 × 休業日数
たとえば、治療のために25日休んだ場合、休業損害の金額は次の通りです。
6,100円 ✕ 25日 = 15万2,500円
なお、6,100円を超えて収入が減少していることを証明できれば、1日あたり1万9,000円を限度として請求が可能です。
一方、弁護士基準では、被害者の職業によって計算方法が異なり、会社員などの給与所得者の場合は、次のように計算します。
事故前3か月分の給与の合計額 ÷ 90日 × 休業日数
このように、弁護士基準では、実際の収入にもとづいて休業損害を計算するので、自賠責基準や任意保険基準により計算した金額に比べて、高額になるケースが多いです。
たとえば、事故前3か月分の給与の合計額が108万円で、休業日数が先ほどと同様に25日だと、休業損害の金額は次の通りです。
108万円 ÷ 90日 × 25日=30万円
自賠責基準と比べて約2倍もの金額差があります。
休業損害の詳細や、給与所得者以外の職業の計算方法などについて、次のコラムで詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
2-2.傷害慰謝料(入通院慰謝料)の比較
交通事故でケガをしてしまい、入院や通院をした場合、傷害慰謝料(入通院慰謝料)を請求することができます。
交通事故で骨折し、2か月(60日間)にわたり通院(実際の治療日数は20回)したケースで、自賠責基準と弁護士基準で計算した傷害慰謝料を比較してみましょう。
現在の自賠責基準では、傷害慰謝料は原則として1日あたり4,300円で計算します。そして、次の2つの計算式から、いずれか日数の少ない方の金額が支払われます。
- 入通院日数 × 4,300円
- 実際の治療日数 × 2 × 4,300円
今回のケースでは、それぞれ次のように計算できます。
60日× 4,300円 = 25万8,000円
20日× 2 × 4,300円 = 17万2,000円
このうち、日数の少ない方の金額が支払われるので、自賠責基準の傷害慰謝料は、17万2,000円です。
一方、弁護士基準による傷害慰謝料は52万円となるため、自賠責基準とは約3倍もの金額差があります。
交通事故によるケガで通院した場合の慰謝料や、通院時の注意点などについては、こちらのコラムで詳しく説明しています。
2-3.後遺障害慰謝料の比較
交通事故による治療を続けても、何らかの後遺症が残ってしまう可能性があります。このような場合、後遺傷害の等級認定を受けると後遺障害慰謝料を請求することができます。
たとえば、交通事故でむち打ちの後遺症が残ったケースでは、後遺障害14級9号、または12級13号に認定される可能性があります。
それぞれの等級で認められる後遺障害慰謝料の金額を比較してみましょう。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
どちらの等級でも、自賠責基準と弁護士基準では、3倍以上の差があります。
後遺障害が認められる要件などについて詳しく知りたい方は、ぜひこちらのQ&Aをご参照ください。
2-4.死亡慰謝料の比較
残念なことに被害者が事故で亡くなってしまった場合、遺族は死亡慰謝料を請求することができます。
被害者に配偶者と未成年の子どもが1人いるケースで、慰謝料の金額を比較してみましょう。
自賠責基準による死亡慰謝料の金額は次の通りです。
被害者本人分 | 400万円 | |
---|---|---|
慰謝料の請求権者が | 1名 | 550万円 |
2名 | 650万円 | |
3名以上 | 750万円 | |
被害者に被扶養者がいる場合 | 上記金額に200万円を加算 |
今回のケースでは、慰謝料の請求権者が2名で、被扶養者がいる場合に該当するので、死亡慰謝料の金額は次のように計算できます。
400万円 + 650万円 + 200万円 = 1,250万円
一方、弁護士基準を用いた場合の死亡慰謝料は、家庭内での被害者の立場などによって金額が異なります。具体的な金額は次の通りです。
一家の支柱である場合 | 2,800万円 |
---|---|
母親、配偶者の場合 | 2,500万円 |
その他 | 2,000万円~2,500万円 |
一家の支柱が亡くなった場合の弁護士基準による死亡慰謝料は2,800万円です。
自賠責基準で計算した死亡慰謝料と比較すると、2倍以上の差があります。
事故で家族を亡くした場合、遺族が請求できるのは死亡慰謝料ではありません。
どのような請求ができるのか、こちらで詳しく説明しています。
2-5.逸失利益の比較
逸失利益とは、交通事故に遭わなければ将来的に得られたはずの利益のことです。
被害者に後遺障害が残って収入が減少したり、亡くなった収入が途絶えたりした場合に、加害者に逸失利益を請求することができます。
後遺障害が残った場合の逸失利益は、次のように計算します。そして、この計算方法は、基本的に自賠責基準でも弁護士基準でも同じです。
後遺障害逸失利益の計算式には、さまざまな用語が出てきますが、簡単に説明すると次の通りです。
- 基礎収入
原則として事故当時の年収。 - 労働能力喪失率
後遺障害が残ったことでどの程度、働くことができなくなったかを示す度合のこと。後遺障害の第1級~第14級の等級(要介護は第1級・第2級)に応じて5%~100%と定められている。 - 就労可能年数
原則として症状固定となったときの年齢から67歳までの期間。 - ライプニッツ係数
将来にわたって得られたはずの利益を、逸失利益として前倒しで一度に受け取ることで発生する利息を控除するための指数のこと。症状固定となったときの年齢と、就労可能年数によって決まっている。
たとえば、年収500万円の人が、50歳で第14級の後遺障害に認定されたケースを例に、逸失利益を計算してみます。
基礎収入は500万円、後遺障害第14級の労働能力喪失率は5%、就労可能年数17年(67歳 – 50歳)に対応するライプニッツ係数は13.166となるので、逸失利益は次のように計算できます。
先ほどご説明した通り、後遺障害逸失利益は、基本的には自賠責基準と弁護士基準で同じ計算方法を使用します。
しかし、自賠責保険から補償される金額には上限が定められているため、自賠責基準では、その上限を超える保険金は支払われません。
また、たとえば、後遺障害14級の場合は75万円です。この75万円には慰謝料と逸失利益の両方が含まれるため、後遺障害14級の慰謝料32万円を差し引くと、逸失利益は最高で43万円まで制限されてしまうのです。
そのため、弁護士が保険会社に対して示談交渉を行なった方が、高額な逸失利益になりやすい傾向があります。
逸失利益に関する詳細や、具体的な計算方法については、こちらのコラムで解説しています。あわせてご参照ください。
3.示談金額が低すぎると感じらたら弁護士にご相談を
保険会社は任意保険基準で計算した賠償金額を示談交渉で提示するため、弁護士基準で計算した金額まで増額できる余地があります。
しかし、保険会社は交通事故や交渉の専門家なので、被害者自身が増額を求めたとしても応じてもらえる可能性は極めて低いです。
この点、交通事故に詳しい弁護士に依頼すれば、賠償金の増額を認めるべき根拠について、必要な証拠を集めたうえで、弁護士基準という法的な視点にもとづいた交渉をしてくれます。
その結果、保険会社との交渉を有利に進めることができるので、示談金の増額が期待できるのです。
また、弁護士に依頼するメリットは、賠償金の増額だけではありません。ほかにもさまざまな場面でメリットがあります。
3-1.保険会社とのやりとりを任せられる
交通事故の被害に遭ってから、保険会社が賠償金を支払うまでに、数多くの必要書類を集めたうえで、繁雑な手続きを進めなければなりません。
また、保険会社とは何度も繰り返しやり取りすることになりますが、保険会社は平日の日中に連絡してくることが一般的です。 仕事や家事、ケガの治療などで大変な状況だと、保険会社とのやり取りは被害者にとって大きな負担です。
また、保険会社は被害者に支払う金額を少しでも低く抑えたいので、専門的な知識を駆使して、有利な立場から示談交渉を強引に進める場合があります。
この点、弁護士に依頼をすれば、必要な手続きや保険会社とのやり取りを任せることができます。
手続きとやり取りによる負担やストレスから解放されるのは、被害者にとって大きなメリットといえるでしょう。
3-2.通院方法についてアドバイスを受けられる
交通事故の被害者が適切な賠償金を受け取るためには、適切な方法で通院することが重要です。
仕事や家事が忙しいからといって、医師の指示通りの頻度で通院しなかったり、勝手に通院を止めたりすると、深刻なケガではないと保険会社が判断し、本来よりも低い賠償金額を提示される可能性があります。
また、痛みなどの症状が残っているため、治療を継続したいと考えていても、保険会社から治療費の支払いを打ち切られてしまう場合もあります。
医師の指示に従いながら通院することが重要ですが、弁護士に依頼することで、通院方法についてアドバイスを受けることができます。
また、保険会社から治療費の打ち切りを打診されても、支払い対応の延長交渉を依頼できるといったメリットがあるのです。
3-3.正しい過失割合を主張してくれる
交通事故の発生について、被害者側にも何らかの責任(過失)がある場合、責任の度合いに応じて慰謝料などの賠償金額が本来の金額よりも低く調整されることがあります。
責任の度合いのことを過失割合と呼び、賠償金額が調整されることを過失相殺と呼びます。
加害者側の保険会社は、少なくとも被害者に有利になるよう過失割合を考えてくれることはありません。
過失割合をどのように判断するかについても、保険会社と交渉する必要がありますが、弁護士に依頼することで、正しい過失割合となるよう交渉してくれます。
過失割合の詳細や、過失相殺の計算方法などについては、こちらのQ&Aで解説しています。ぜひご確認ください。
3-4.後遺障害の申請手続きをサポートしてくれる
治療を続けてもケガが完治せず、何らかの後遺症が残ることがあります。
この場合、後遺障害の等級認定を申請し、その認定を受けることで、後遺障害の慰謝料や逸失利益などの賠償金を請求することができます。
しかし、申請すれば必ず等級が認定されるというものではありません。
申請書類の内容が不十分な場合や、記入漏れなどの不備があると、認定されなかったり、本来であれば認定されるはずの等級よりも低い等級に認定されたりする可能性があります。
また、医師は必ずしも後遺障害の仕組みに詳しいとは限らないので、適切な等級に認定されることを念頭に、申請時に必要な後遺障害診断書を作成しないケースもあります。
この点、後遺障害等級の認定基準や過去の認定事例に詳しい弁護士であれば、診断書の作成からサポートしてくれるので、適切な等級認定を受けられる可能性が高まります。
4.保険会社との示談交渉が難航したら?
弁護士に依頼しても、保険会社が提示する金額と、弁護士が請求する金額に大きな開きがあるといったケースでは、お互いの主張が平行線を辿り、示談交渉が難航することも少なくありません。
このようなケースでは、次のような方法で解決を目指すことができます。
- 交通事故紛争処理センターを利用する
- 裁判を起こす
なお、交通事故処理センターの利用や裁判を起こす手続きを、被害者自身で進めることもできますが、賠償金の増額を認めるべき証拠を収集し、適切に主張する必要があります。
非常に専門的な法律知識が求められるため、まずは弁護士に示談交渉を依頼し、交渉がまとまらない場合に進む次のステップと考えた方がよいでしょう。
4-1.交通事故紛争処理センターを利用する
交通事故紛争処理センターは、被害者と加害者の中立的な立場から、紛争の解決をサポートする機関のことで、裁判外紛争手続(ADR)の一種です。
加害者側の保険会社との示談交渉が難航した場合、交通事故紛争処理センターを利用して争いの解決を目指すことができます。
交通事故紛争処理センターでは、次の3つの手続きを利用できます。
利用するための費用はいずれも無料です。
- 法律相談
交通事故紛争処理センターの相談担当弁護士が相談に応じてくれます。 - 和解あっ旋
相談担当弁護士が中立公正な立場から、争点や賠償額などについて、和解に向けた解決策(和解案)を提案します。 - 審査手続
法学者や元裁判官、弁護士の3名で構成された審査会が、紛争解決のための解決策を示します。
交通事故紛争処理センターに関する詳細や利用の手続きなどについて、こちらのコラムでご紹介しています。ぜひご参照ください。
4-2.裁判を起こす
示談交渉が決裂した場合や、相手がまともに話し合いに応じないような場合、裁判を起こすことで、判決という形式により最終的な解決を図ることができます。
なお、裁判を起こす前に調停やADR(裁判外紛争解決手続)など、第三者を交えた手続きで話し合いを続けることもできますが、調停やADRでも解決できなければ、やはり裁判に至ります。
裁判を起こす場合の手続きや流れ、費用などについては、こちらで詳しく解説しています。
5.弁護士費用特約を利用すれば費用負担の心配なし
弁護士に依頼したいと思っても、弁護士費用の支払いが心配な方がいるかもしれません。
また、交通事故により発生した損害額が少ない場合、弁護士に依頼しても、得られた利益より弁護士費用の方が高額になり、「費用倒れ」となってしまう可能性もあります。
この点、加入中の自動車保険や火災保険の特約として、弁護士費用特約を付帯している場合、弁護士費用が保険から支払われるため、原則として、費用を負担することなく弁護士に依頼できます。
損害額が少ないケースでも、得られた利益を全額受け取ることができるので、費用倒れを気にする必要がありません。
弁護士費用特約を利用するメリットや、利用するための流れなどについて、次のコラムで分かりやすく解説しています。
もし、弁護士費用特約に加入していない場合、弁護士法人プロテクトスタンスでは、弁護士に依頼する金銭的メリットがあるかどうか、事前にシミュレーションいたします。
もちろん、シミュレーションの結果を踏まえて依頼するか決めていただけますので、まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。