【弁護士監修】交通事故の逸失利益とは?考え方や計算方法を詳しく解説!
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
0.交通事故の逸失利益とは
逸失利益とは、交通事故の被害に遭わなければ、将来的に得られたはずの利益のことです。
交通事故の被害者に後遺障害が残ったり、死亡してしまったため、収入が減少したり途絶えた場合、加害者に逸失利益を請求できます。
このコラムでは、逸失利益の考え方や計算方法などについて、弁護士が詳しく解説します。
1.交通事故の逸失利益は2種類ある
逸失利益は、交通事故によって被害者に後遺障害が残ったり、死亡したりすることで得られなくなった将来の収入を補償するものです。
交通事故の逸失利益には、次の2種類があります。
1-1.後遺障害逸失利益
交通事故により何らかの後遺症が残ってしまうと、事故以前と同じように働くことが困難になり、収入が減少したり、途絶えたりする可能性があります。
このような場合、後遺障害の等級認定を受けることで、事故がなければ得られたはずの収入を「後遺障害逸失利益」と呼び、加害者に請求することができます。
1-2.死亡逸失利益
被害者が死亡した場合は、収入が完全に途絶えてしまいます。
死亡しなければ本来得られたはずの収入を「死亡逸失利益」と呼び、遺族が請求することができます。
2.事故前と収入が変わらなくても認められる?
後遺障害逸失利益は、後遺障害の症状が仕事に影響を及ぼし、収入が減ったり途絶えたりした場合に請求が認められます。
そのため、後遺障害が残っても事故前と収入が変わらなければ、原則として逸失利益は認められません。
しかし、次のようなケースに当てはまる場合、事故前と収入が変わっていなくても、逸失利益が認められる可能性があります。
- 本人の努力や職場の支援により減収を免れることができた
- 将来的には、昇給や昇進、転職などで不利益を受けてしまう
なお、このようなケースに当てはまるとしても、加害者の保険会社から逸失利益を否定されることが少なくありません。
そのため、逸失利益を認めさせるためには、後遺障害の症状により仕事にどのような影響が生じているかを、具体的に証明することが重要になります。
3.逸失利益と慰謝料や休業損害とは何が違う?
逸失利益以外に被害者が請求できる損害賠償として、慰謝料や休業損害がありますが、逸失利益とは、どのような違いがあるのでしょうか?
3-1.慰謝料との違い
逸失利益は交通事故による将来の減収を補償するものですが、慰謝料は事故の被害によって生じた精神的苦痛に対する賠償金です。
そして、交通事故の慰謝料には次の3種類があります。
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料):被害者がケガの治療を受けた場合
- 後遺障害慰謝料:被害者に後遺障害が残った場合
- 死亡慰謝料:被害者が亡くなった場合
3-2.休業損害との違い
休業損害も、逸失利益と同様に、交通事故によって得られなくなった収入を補償するものです。
逸失利益との大きな違いは、補償の対象となる期間です。
●逸失利益
症状固定日または死亡日から、事故がなければ働いていたはずの年齢までの期間
●休業損害
交通事故の発生日から症状固定日または死亡日までの期間
4.後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益は、次のように計算します。
- 後遺障害逸失利益
- 基礎収入(年間収入額) ✕ 労働能力喪失率 ✕ 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
4-1.基礎収入とは
「基礎収入」とは、原則として事故当時の年収のことです。
被害者が会社員の場合、事故の前年の源泉徴収票に記載された年収額が基礎収入となります。
また、自営業者や個人事業主は、前年度の確定申告に記載した申告所得金額などが該当します。
さらに、収入のない専業主婦や学生にも逸失利益が認められる場合があります。
基礎収入は、厚生労働省の統計結果「賃金センサス」の平均賃金から算出します。
4-2.労働能力喪失率とは
「労働能力喪失率」は、後遺障害が残ったことで、どの程度働くことができなくなったかを示す数値です。
後遺障害は、症状の程度によって第1級~第14級の等級(要介護は第1級・第2級)に分類されます。
そして、労働能力喪失率は、この等級ごとに定められており、各等級の喪失率は次の通りです。
等級 | 喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
等級 | 喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
4-3.就労可能年数とは
就労可能年数は、原則として、治療を継続しても症状の改善が見込めない状態、つまり「症状固定」となったときの年齢から67歳までの期間です。
ただし、被害者の年齢などによって、期間の算出方法が異なる可能性があります。
たとえば、被害者が学生の場合は18歳もしくは大学卒業時から67歳までとしたり、55歳以上の場合は平均余命年数の2分の1としたりする場合があります。
4-4.ライプニッツ係数とは
「ライプニッツ係数」は、将来にわたって得られたはずの利益を、逸失利益として前倒しで一度に受け取ることで発生する利息を控除するための指数です。
たとえば、67歳まで働くはずだった人が、50歳で事故に遭い、完全に働けなくなった場合、17年分の収入が得られなくなったことになります。
しかし、17年かけて収入を得るのではなく、逸失利益として前倒しで一度に受け取ると、本来より早くそのお金を運用できるようになります。
お金を運用すると、利息という形式で利益が発生するため、逸失利益を計算する際は利息を差し引くことになっています。
利息を差し引いて計算することを「中間利息控除」と呼び、ライプニッツ係数は控除するために使われます。
ライプニッツ係数は、症状固定となったときの年齢と、就労可能年数によって決まります。
そして、法律で定められた法定利率である年3%をもとに算出します(民法第404条)。
就労可能年数に対応するライプニッツ係数の具体的な計算式は次の通りです。
1年の場合:1÷1.03≒0.971
2年の場合:{1÷1.03}+{1÷(1.03×1.03)}≒1.913
3年の場合:{1÷1.03}+{1÷(1.03×1.03}+{1÷(1.03×1.03×1.03)}≒2.829
たとえば、50歳で症状固定となり、就労可能年数が17年の場合のライプニッツ係数は13.166です。
就労可能年数に応じたライプニッツ係数は、国土交通省のホームページから確認できます。
なお、ライプニッツ係数の算出に用いる法定利率は、これまで年5%でしたが、法改正により2020年4月1日から年3%に引き下げられました。
法定利率は今後も3年に1度の頻度で見直されることになっているため、法定利率の見直しに応じて、ライプニッツ係数の数値も変更される可能性があります。
4-5.後遺障害逸失利益の計算例
年収500万円の人が交通事故に遭い、50歳で第8級の後遺障害に認定されたケースを例に、逸失利益を計算してみましょう。
逸失利益は次の通りとなります。
基礎収入 | 500万円 |
後遺障害8級の労働能力喪失率 | 45% |
就労可能年数 | 17年 (50歳-67歳) |
就労可能年数(17年)に対応するライプニッツ係数 | 13.166 |
逸失利益 500万 ✕ 0.45 ✕ 13.166 = 2,962万3,500円 |
5.死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は次のように計算します。
- 死亡逸失利益
- 基礎収入 ✕ (1 - 生活費控除率) ✕ 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
基礎収入や就労可能年数に対応するライプニッツ係数の考え方は、後遺障害逸失利益と同様です。
5-1.生活費控除率とは
生活費控除率は、被害者が亡くなったことで発生しなくなった生活費を控除するための数値です。具体的な数値は次の通りです。
一家の支柱(被扶養者1人) | 40% |
---|---|
一家の支柱(被扶養者2人以上) | 30% |
女性(主婦、独身、幼児など) | 30% |
男性(独身、幼児など) | 50% |
5-2.死亡逸失利益の計算例
年収500万円の人(被扶養者1人)が、50歳で死亡したケースを例に、逸失利益を計算してみましょう。
逸失利益は次の通りとなります。
基礎収入 | 500万円 |
被扶養者1人の生活費控除率 | 40% |
就労可能年数 | 17年 (50歳-67歳) |
就労可能年数(17年)に対応するライプニッツ係数 | 13.166 |
逸失利益 500万 ✕ (1-0.4) ✕ 13.166 =3,949万8,000円 |
6.逸失利益の請求は弁護士に相談
保険会社は支払いを抑えるため、「労働能力が低下していない」「減収が生じていない」などと主張し、逸失利益を少なく算出したり、支払いを拒んだりするケースが少なくありません。
たとえば、後遺障害の等級認定を受けると、保険会社が労働能力喪失率を踏まえて、逸失利益を算出します。
その際、基本的には等級ごとの喪失率を記載した表にある数値通りに逸失利益を算出します。
しかし、後遺障害の症状が仕事に影響を与えていないといった理由で、表よりも低い数値で喪失率を調整し、逸失利益を少なく算出することがあるのです。
また、実際よりも基礎収入を少なく見積もったり、就労可能年数を短くしたりして、逸失利益を算出することも考えられます。
保険会社から提示された逸失利益の金額に不満があったり、支払い自体を拒否されたりした場合は、保険会社と交渉して増額や支払いを求めることになります。
もし、保険会社と交渉する際は、後遺障害の症状が仕事に影響を及ぼしていることを示す証拠を集めて証明したり、適切な逸失利益を算出したりしたうえで、増額や支払いを認めさせなければなりません。
自分で交渉することも不可能ではありませんが、交通事故や交渉に関する知識と経験が豊富な専門家である保険会社を相手に、対等に話し合いを進めるのは非現実的です。
そのため、逸失利益については、交通事故に詳しい弁護士に相談することが重要です。
弁護士に依頼した場合、過去の交渉や裁判の結果などを踏まえ、法的に最大限請求可能な逸失利益を算出し、保険会社との増額交渉を行なってくれます。
ぜひ一度、弁護士法人プロテクトスタンスの無料相談をご利用ください。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。