【弁護士監修】交通事故紛争処理センターとは?利用方法や弁護士相談との違いを解説!
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
0.交通事故紛争処理センターとは?
交通事故紛争処理センターは、被害者と加害者の中立的な立場から、紛争の解決をサポートする機関のことで、裁判外紛争手続(ADR)の一種です。
交通事故の被害者は、損害賠償を請求するため、加害者や保険会社と示談交渉を行います。
もし、示談交渉が難航した場合、民事調停(交通調停)や訴訟といった裁判上の手続きだけでなく、交通事故紛争処理センターを利用して争いの解決を目指すこともできます。
このコラムでは、交通事故紛争処理センターでできることや弁護士相談との違い、利用方法、メリット・デメリットなどを詳しく解説します。
1.交通事故紛争処理センターでは何ができる?
交通事故紛争処理センターでは、次の3つの手続きを利用できます。
利用するための費用はいずれも無料です。
- 法律相談
- 和解あっ旋
- 審査手続
1-1.法律相談
法律相談では、交通事故紛争処理センターから委託を受けた相談担当弁護士が、相談に応じてくれます。
センターの利用を申立てた人(被害者)は、初回相談時に必要資料を提出したうえで、事故の状況や請求したい損害賠償額などを主張します。
相談担当弁護士は提出された資料や主張の内容などを踏まえ、問題点を整理したり、助言してくれたりします。
なお、加害者側の保険会社は、初回相談時には出席せず、2回目から参加することが一般的です。
法律相談は、次の手続きである和解あっ旋に進むことが前提としているので、基本的に法律相談のみでは終了しません。
しかし、相談内容によっては裁判手続きを案内したり、弁護士会など他の相談機関を紹介したりして、相談のみで終了する場合もあります。
1-2.和解あっ旋
和解あっ旋では、相談担当弁護士が中立公正な立場から、争点や賠償額などについて、和解に向けた解決策(和解案)を提案してくれます。
和解あっ旋は1回につき1時間以内を目途に行われ、相談担当弁護士が書面や口頭で提案内容を説明します。
和解あっ旋は合意に至るまで複数回行われますが、損害賠償に関する資料が揃っていれば、通常は3回のあっ旋で70%以上、5回までに90%以上の和解が成立しています(人身事故の場合)。
和解あっ旋により和解が成立すると、相談担当弁護士の立会いのもとで示談書や免責証書を作成し、手続きが終了します。
和解成立のほか、被害者が和解あっ旋を取り下げたり、保険会社などが訴訟による解決を要請してセンターが要請を承認した場合も、和解あっ旋は終了します。
また、相談担当弁護士が、和解成立の見込みがないと判断した場合、和解あっ旋が不調になったことが被害者と保険会社に通知されます。
被害者か保険会社が通知から14日以内に申立てをすると、次の手続きである審査手続きに移行します。
なお、保険会社が申立てをする場合は、被害者の同意が必要です。
1-3.審査手続
審査手続は、法学者や元裁判官、弁護士の3名で構成した審査会が、紛争解決のための解決策を示して裁定する手続きです。
審査会は、被害者と加害者から、争点の説明や主張をそれぞれ聞いたうえで、裁定を行います。
裁定の内容について、裁定の告知から14日以内に被害者が同意すると示談が成立します。
示談が成立すると、相談担当弁護士が示談書や免責証書を作成し、その内容にもとづいて、保険会社が賠償金の支払いなどを進めます。
なお、保険会社は裁定の内容を尊重することになっているので、被害者が同意すれば示談が成立します。
被害者が同意しなければセンターでの手続きが終了し、訴訟などの手続きに移行することになります。
2.法律事務所の弁護士相談との違いは?
交通事故紛争処理センターの相談担当弁護士に相談するのと、法律事務所の弁護士に相談する場合とでは、どのような違いがあるのでしょうか?
一番の大きな違いは、弁護士が相談者の味方となってくれるかどうかです。
法律事務所の弁護士は、相談者である被害者の立場に立ち、相談者が損をしないよう、そして、最大限の利益を得るための解決策を提案してくれます。
一方、相談担当弁護士はあくまでも加害者と被害者の間の中立的な立場なので、必ずしも被害者の味方をするわけではありません。
3.交通事故紛争処理センターの流れと利用方法
交通事故紛争処理センターの手続きは、次のような流れで進んでいきます。
電話予約
センターに電話し、法律相談を予約する
↓
資料送付
センターから送られてくる説明資料を参考に、利用申込書に記入し、必要書類を集める
↓
法律相談
申込書と必要書類を提出し、相談担当弁護士に相談する
(相談内容によっては法律相談のみで終了)
↓
和解あっ旋
被害者と保険会社からの主張をもとに、相談担当弁護士が解決策を提案する
↓
和解成立
示談書や免責証書を作成して手続きが終了
和解不成立
審査手続を申立てて、受理されれば審査手続に移行する
(審査手続きを申立てない場合や、申立てが受理されない場合は手続きが終了)
↓
審査手続
審査会が被害者や保険会社から説明・主張を聞き示す裁定を行う
↓
和解成立
被害者が裁定の内容に同意すれば和解が成立し、示談書や免責証書を作成して手続きが終了する
和解不成立
被害者が最低の内容に同意しなければ和解が不成立となり、手続きが終了する
(訴訟などの手続きに移行)
交通事故紛争処理センターの3つの手続きを利用する手続きとしては、まず法律相談の電話予約が必要です。
センターは東京本部のほか、7か所の支部(札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、高松、福岡)と3か所の相談室(さいたま、静岡、金沢)があります。このうち、被害者の住所地か事故の発生地を管轄するセンターに電話します。
電話できるのは、祝日や年末年始を除く月曜日から金曜日までの9時~15時までです。
電話で法律相談の日時を決めると、利用申込書と提出が必要な書類に関する説明資料などがセンターから送られてきます。
相談当日にセンターに行き、申込書や必要書類を提出すると、相談担当弁護士による法律相談が始まります。
その後、和解あっ旋や審査手続といった手続きに進んでいきます。
4.交通事故紛争処理センターを利用するメリット
交通事故紛争処理センターを利用するメリットとして、主に次のような点が挙げられます。
4-1.裁判上の手続きより短期間での解決を目指せる
たとえば、訴訟を起こした場合、解決までに1年程度かかるケースがほとんどです。
交通事故紛争処理センターを利用すると、2~3か月で終了することが少なくなく、裁判上の手続きよりも短期間での解決を目指すことができます。
4-2.無料で利用できる
調停や訴訟を行うには費用が必要ですが、交通事故紛争処理センターの手続きは無料で利用できます。
4-3.保険会社との知識・経験の差を埋められる
保険会社は交通事故の知識や交渉の経験が豊富なので、一般の方が対等な立場で交渉するのは非常に困難です。
センターの相談担当弁護士や審査会は公平・中立的な立場から解決案を提示してくれるため、保険会社に対して不利な立場で話し合いが進むことがありません。
4-4.被害者はセンターの判断に従う必要がない
訴訟の場合、裁判官が下した判決の内容には、被害者も従う必要があります。
この点、センターの審査手続では、保険会社は審査会の裁定の内容を尊重しますが、被害者は内容に不服があれば従う必要はありません。
5.交通事故紛争処理センターのデメリット
さまざまなメリットがある交通事故紛争処理センターですが、デメリットもあることに注意が必要です。
5-1.利用の手続きに手間がかかる
センターを利用するには、交通事故証明書や事故発生状況証明書、賠償金提示明細書、治療費の領収書、後遺障害診断書(等級認定を受けた場合)など、様々な書類を準備する必要があります。
また、予約をするのに時間がかかる場合がありますし、手続きが始まればセンターまで出向く必要があるなど、センターの利用には様々な手間がかかります。
5-2.必ずしも被害者の味方ではない
センターは、あくまでも公平・中立の立場から争いの解決を目指す機関なので、必ずしも被害者の味方となってくれるわけではありません。
この点、法律事務所の弁護士に保険会社との示談交渉を依頼すれば、被害者にとって有利な解決となるように交渉を進めてくれます。
5-3.すべての事故で利用できるわけではない
次のようなケースでは、センターを利用することはできないため、調停や訴訟による解決を目指すことになります。
- 自転車同士、自転車と歩行者など、相手が自動車ではない事故
- 後遺障害の等級認定について争っている場合
- 相手の保険会社がわからない場合
6.保険会社との示談交渉は弁護士にご相談を
保険会社との示談交渉が難航した場合、まずは交通事故に詳しい法律事務所の弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、依頼者の味方として、保険会社と対等以上の立場で交渉してくれるので、損害賠償金の増額が期待できます。
また、保険会社とのやり取りや、損害賠償金の受取りまでに必要な手続きを弁護士に任せることができます。
事故による負傷や治療などで辛いなか、これらを自分で対応するのはとても大変なので、弁護士に任せられるのは大きなメリットでしょう。
もし、加入中の保険に弁護士費用特約を付けていると、弁護士費用が保険から支払われるため、弁護士費用の負担が不要になるケースが大半です。
家族が加入している特約や、自動車保険以外の保険に付いている特約を利用できる場合があるので、弁護士に相談する前に確認するようにしましょう。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。