アリナミンテスト [ありなみんてすと]
- 意味
嗅覚障害のうち、嗅覚脱失の確認のために行われる静脈性嗅覚検査のことです。アリナミンを静脈注射するため、この通称名で呼ばれることがあります。
- 解説
交通事故による頭部や鼻のケガなどにより、嗅覚に異常を来たす嗅覚障害が発生することがあります。
嗅覚障害の検査には、T&Tオルファクトメーターを用いた基準嗅覚検査を実施しますが、においがまったく感じられない嗅覚脱失の場合には、アリナミン静脈注射による検査の結果のみでも確認することができます。
アリナミンのようなにおい(いわゆる「ニンニク臭」)が強い物質を注射した場合、血管内の液体は肺で気化するため、においが肺から呼気と一緒に鼻孔を通過します。
そのため、被験者がにおいを感じるか否かを調べることで、嗅覚脱失の有無を確認できます。後遺障害とアリナミンテスト
アリナミンテストには、アリナミンP(プロスルチアミン)を使用するテストと、アリナミンF(フルスルチアミン)を使用するテストとがあります。
この点、交通事故の後遺障害における等級認定手続きにおいて、嗅覚脱失を立証するには、アリナミンPによるテストを受ける必要があります。
これは、アリナミンFがプロスルチアミンのニンニク臭を緩和するために発明されたという経緯に由来しています。
嗅覚脱失を調べる検査ですから、においが緩和されたアリナミンFでは立証として不十分と捉えられてしまうのです。余談ですが、アリナミンPもアリナミンFもビタミンB1誘導体であり、肉体疲労の回復・予防用の医薬品としても有名です。
なお、すべての耳鼻咽喉科でアリナミン検査が実施できるわけではありませんので、検査を希望する場合は事前に病院やクリニックに確認することをおすすめします。
後遺障害と嗅覚脱失
交通事故による頭部や鼻の外傷などにより、嗅覚障害の後遺症が発生した場合、後遺障害の等級認定を申請することができます。
この点、鼻の軟骨の欠損を伴わない嗅覚脱失の機能障害は、後遺障害等級表上、特に定められていませんが、12級相当として取り扱われています。
次に、嗅覚脱失について後遺障害の等級が認定された場合でも、加害者側の保険会社との示談交渉には注意が必要です。
特に、後遺障害の逸失利益については、嗅覚脱失の労働能力喪失について保険会社と争いになることがあります。
わかりやすく言うと、「においを嗅ぐことができなくとも、仕事に支障がない」と主張されてしまうのです。実際の裁判例でも、デスクワークによる会社員の労働能力喪失を認めなかったケースがあり、また、花屋経営者や製造技師に認めたケース、さらには、調理師(兼飲食店経営者)には基準以上の労働能力喪失を認めたケースもあります。
そのため、逸失利益を獲得するには、被害者の職業に加えて、仕事への具体的な支障や不都合について、実情に即して丁寧に主張・立証していくことが重要です。
さらに、労働能力の喪失が認められない場合でも、嗅覚脱失という後遺障害から受ける日常生活の不利益は大きく、生活の質の低下は著しいものがあります。そのため、これらを明らかにすることで、後遺障害の慰謝料の増額が認められる可能性もあります。
たとえば、過去の裁判例の中には、次のようなものがあります。
交通事故の負傷により嗅覚脱失で後遺障害の12級相当、外貌醜状で14級11号、併合で12級が認められたケースです。
判決では、「嗅覚の職業生活上の役割は視覚・聴覚とはおのずと異なり、嗅覚の脱失それ自体が逸失利益すなわち労働能力の喪失に一般的に結びつくものであることまで認めることはできない。嗅覚の脱失による労働能力の喪失を認めるためには被害者の職業との関連性が必要とされるものと考える」としたうえで、哲学の教師を志望していた男子大学生の後遺障害逸失利益を否定しました。
しかし、嗅覚を完全に脱失したことで受ける生活上のさまざまな不利益や不都合を考慮して、後遺障害慰謝料として600万円を認めました。
東京地裁平成11年5月25日判決
(交通事故民事裁判例集32巻3号804頁)交通事故による嗅覚障害の後遺症に悩んでいる方は、ぜひ、弁護士に相談してください。適切な賠償が受けられるよう、全力でサポートさせていただきます。
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