ケガをしたのに警察が物損事故の扱いにした場合の対応を弁護士が解説

交通事故のよくあるご相談Q&A(FAQ)

警察対応

Q.uestion

交通事故でケガをしたのに、物損事故の扱いになっていました。どうすればよいですか?

弁護士 大橋史典
弁護士 大橋史典
Answer

物損事故の扱いのままだと、慰謝料などが支払われない可能性があります。医師に診断書を作成してもらい、警察署に提出するなど、人身事故に切り替える手続きを進めましょう。

0.交通事故でケガをしたのに物損事故として扱われるケースがある

交通事故によりケガをした場合、通常は人身事故として処理され、警察の実況見分などが行われます。
ところが、事故直後は痛みなどの症状がなかった場合や、加害者に頼まれたような場合、事故が物損事故として処理されるケースがあります。

ケガをしているのに物損事故として処理されると、治療費や慰謝料の請求が認められない可能性があるなどのリスクがあります。
そのため、物損事故として処理されている場合は人身事故に切り替えることが重要です。

1.物損事故と人身事故の違い

人身事故とは、被害者がケガをしたり、亡くなったりした交通事故のことです。物損事故は、死傷者が出なかったものの、車両や所持品などの物が壊れたり、傷ついたりした事故のことです。

人身事故と物損事故には、ほかにも次のような違いがあります。

人身事故物損事故
自賠責保険適用対象適用外
行政処分
(免許の点数)
加算される加算されない
刑事処分対象対象外
実況見分調書作成される作成されない
(物件事故報告書を作成)
慰謝料の請求原則不可
損害賠償請求権の
消滅時効(短期)
被害者が損害および加害者を知った時から5年
(民法第724条の2)
被害者が損害および加害者を知った時から3年
(民法第724条1号)
損害賠償請求権を
受働債権とする相殺
不可
(民法第509条2号)
悪意のある場合は可
(民法第509条)

2.ケガをしたのに物損事故として扱われるケース

たとえば、次のようなケースでは、ケガをしていても交通事故が物損事故として処理される場合があります。

  • 事故直後は痛みなどの症状がなかった
  • 加害者から「物損事故として処理して欲しい」と頼まれた

2-1.事故直後は痛みなどの症状がなかった

交通事故の衝撃を受け、頭を強く打ち付けたり、首に大きな負荷がかかったりした場合、むち打ちになってしまうことがあります。
むち打ちになると、事故直後ではなく数時間後や数日後に、痛みやしびれといった症状が現れる場合があります。

目立った擦り傷や切り傷などがなければ、加害者や警察などに「ケガをしていない」などと伝えてしまい、物損事故として扱われるケースがあるのです。

2-2.加害者から「物損事故として処理して欲しい」と頼まれた

スピード超過や飲酒運転といった違反行為がなければ、物損事故を起こしても原則として違反点数は加算されませんし、刑事事件の対象になりません。
そのため、加害者は人身事故として処理されることを避けるため、被害者に対し「物損事故として処理して欲しい」とお願いするケースがあります。

加害者のお願いに応じてしまうと、そのまま物損事故として処理されてしまうことになります。

3.ケガをしたのに物損事故として扱われるリスク

交通事故でケガをしたのに、物損事故として扱われたままだと、次のようなリスクが生じる可能性があります。

3-1.治療費や慰謝料の支払いを拒否される

交通事故でケガをした場合、加害者や加害者が加入する保険会社に対し、治療費や慰謝料などを請求することができます。
しかし、ケガをしているのに物損事故として扱われたままだと、事故によるケガではないと加害者側に主張され、支払いを拒否される可能性があります。

3-2.過失割合の争いに発展する

停車中の追突事故などを除き、事故の発生に対して加害者だけでなく被害者にも一定の落ち度(過失)があるケースは少なくありません。

人身事故の場合、事故の状況を詳しく説明する実況見分調書を警察が作成します。しかし、物損事故では、事故の状況を簡単に説明する物件事故報告書しか作成されません。

過失割合を巡り加害者側と意見が分かれた場合、物件事故報告書だと事故の詳細を把握できず、自分の言い分が正しいことを証明するのが困難です。
加害者側が慰謝料などの支払いに応じたとしても、正しい過失割合を証明できなければ、実際の被害に対して少ない金額しか支払われない可能性があります。

3-3.加害者が行政処分や刑罰の対象にならない

物損事故は原則として違反点数が加算されないので、免許停止や取消しなどの行政処分を受けることはありません。また、刑事事件の対象外なので、懲役や罰金といった刑罰も科されません。

加害者に相応の処分を受けて欲しいと考えているのであれば、人身事故に切り替えることが重要です。

4.物損事故から人身事故に切り替える手続き

ケガをしているのに物損事故として処理されているため、人身事故に切り替えたい場合、次のような流れで手続きを進めます。

  • 医師に診断書を作成してもらう
  • 警察署に診断書などを提出する
  • 実況見分に立ち会う

4-1.医師に診断書を作成してもらう

人身事故に切り替えるには、交通事故でケガしたことを証明する必要があります。そのため、病院で医師の診察を受け、診断書を作成してもらいましょう。

次のような点を医師に説明したうえで、事故が原因のケガであること(ケガと事故との因果関係)がわかるよう、診断書を作成してもらうことが重要です。

  • 交通事故の発生日
  • 事故発生時の状況
  • 症状が現れ始めた時期
  • 症状がある身体の部位

また、診断書を適切に作成してもらうためには、症状にあった診療科を受診することも重要です。
たとえば、骨折や打撲、捻挫であれば整形外科、頭部を怪我した場合は脳神経外科や神経内科などを受診します。

診断書の作成には費用がかかります。金額は病院によって異なりますが、3,000円から5,000円ほどが相場のようです。診断書の作成にかかった費用は加害者に請求できるため、領収書は捨てずに保管しておきましょう。

なお、診断書は整骨院や接骨院では作成してもらえません。医師だけが作成できる点に注意が必要です。

4-2.警察署に診断書などを提出する

診断書を受け取ったら、事故の処理を行なった警察署に提出します。

突然、警察署を訪れても対応してもらえない可能性があるため、物損事故から人身事故に切り替えたいことを事前に連絡しておきましょう。
診断書以外の資料も必要な場合があるので、警察に連絡する際は提出書類や持参物などを確認してください。

事故から日数が経過していると、事故とケガが無関係だと判断されて、切り替えを拒否されてしまう可能性があります。
人身事故へ切り替える手続きに厳密な期限はありませんが、事故発生から10日前後であれば、切り替えが認められるケースが多いです。

できるだけ早く病院へ行って診断書を作成してもらうなど、スムーズに手続きを進められるようにしましょう。
もし、警察から「人身事故に切り替えるなら〇日以内に連絡してください」など、期限を指定されている場合は従うようにしてください。

4-3.実況見分に立ち会う

診断書などを提出し、警察が人身事故への切り替えを認めると、被害者と加害者の立ち合いのもとで実況見分が行われます。
実況見分の結果を踏まえ、事故の状況などを詳しく説明する実況見分調書を警察が作成します。

実況見分調書は、加害者側と過失割合について話し合う場面などで重要な資料となります。
実況見分に立ち会う際は警察から事故の状況についてなど、さまざまな質問を受けるので正確に回答しましょう。

また、人身事故への切り替えが認められた場合、人身事故の発生を証明する「交通事故証明書」を自動車安全運転センターが発行します。
交通事故証明書は損害賠償金の請求など、さまざまな場面で必要となる重要な書類なので、必ず入手しましょう。

交通事故証明書は基本的に任意保険会社が取得するため、加害者または被害者が任意保険に加入していれば、保険会社に連絡することで入手できます。
任意保険に未加入など自分で入手する場合は、自動車安全運転センターの窓口やインターネット、郵便局などから申請します。

交通事故証明書の入手方法を次のQ&Aで詳しく説明しております。ぜひご参照ください。

交通事故のよくあるご相談Q&A:手続き

交通事故証明書の入手方法を教えてください。

5.人身事故に切り替えるなら弁護士にご相談を

ケガをしたのに物損事故として扱われたため、人身事故に切り替えたい場合は交通事故に詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。
病院の受診や警察への連絡など、人身事故への切り替えに必要な手続きの進め方についてアドバイスしてくれます。

また、弁護士に依頼すれば、人身事故への切り替えが認められた後も次のような手続きを任せることができます。

  • 保険会社とのやり取りや必要書類の収集・作成
  • 後遺障害が残った場合の等級認定の申請
  • 保険会社との示談交渉

ケガの症状や通院などで苦しい状況の中、これらの手続きを自分で進めるのは大変な負担なので、弁護士に任せられるのは大きなメリットといえるでしょう。

また、示談交渉では、保険会社から損害賠償金の金額が提示されますが、法的に認められる金額よりも大幅に少ないケースが大半です。
しかし、金額に不満があっても交通事故と交渉のプロである保険会社に増額を認めさせるのは不可能に近いでしょう。

この点、弁護士であれば法的に認められる最大限の賠償金額を算出し、その金額を目指して保険会社と交渉してくれるので、増額が期待できます。

弁護士 大橋史典
弁護士 大橋史典
この記事を監修した弁護士

弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)

獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。

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