休業損害
交通事故の休業損害とは何ですか?
交通事故のケガなどにより、仕事を休まざるを得なくなった場合の減収分を補償するために支払われる賠償金のことです。
0.休業損害とはどのような損害か?
交通事故によるケガの治療のために病院に通院するなど、仕事を休まないといけなくなった場合、休業損害を請求することができます。
休業損害は、交通事故日から、完治または症状固定日までに休業した日数をもとに計算され、給料や賞与、日当、アルバイト代、収入(自営の場合)などがその対象となります。
また、専業主婦(主夫)などの家事従事者であっても、家事労働には経済的価値があると考えられているため、休業損害が認められます。
休業損害において大切なポイントは、算定方法が3つあること(自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準)、また、算定方法によって金額が異なることです。
1.自賠責基準での休業損害
自賠責基準とは、自賠責保険会社が賠償金を算定するときに用いる基準です。
自賠責基準では、原則的に日額6,100円となります。この日額に、被害者が休業した日数を掛けることで、休業損害の金額を計算します。
6,100円 × 休業日数
※ただし、日額が6,100円を超えることが明らかな場合は、最大19,000円を限度として実際の損害額が認められます。
つまり、被害者の休業日数が30日と想定すると、約18万円の休業損害が自賠責保険から支払われることになります。
2.任意保険基準での休業損害
任意保険基準とは、各損害保険会社が賠償金を算出するときに用いる基準です。
この基準は、各損害保険会社が独自に定めており、公開されていません。
しかし、およその目安として、自賠責基準と同等程度になるといわれています。
3.弁護士基準での休業損害
弁護士基準とは、交通事故に関する過去の裁判において認められた金額にもとづいており、弁護士が賠償金を算定するときに用いる基準です。裁判所基準とも呼ばれます。
被害者の職業により休業損害の計算に必要な日額の求め方が異なるため、3つの算定基準のうち、被害者の損害の実態に最も近い金額を算出できるという特徴があります。
3-1.会社員の計算方法
被害者の職業が会社員の場合は、次の計算式で休業損害を計算します。
事故前3か月分の給与の合計額 ÷ 90日 × 休業日数
たとえば、事故前3か月分の給与の合計額が90万円、休業日数が30日と想定すると、休業損害額は、30万円となります(90万円÷90日×30日=30万円)。
会社員の場合は、事故前3か月分の給与額を証明するために、勤め先の会社に「休業損害証明書」を作成してもらうようにしましょう。
なお、記入すべき金額は、手取り金額ではなく、総支給額です。収入が正しく記載されているか、よく確認するようにしてください。
3-2.自営業者の計算方法
被害者が自営業者の場合、次の計算式で休業損害を計算します。
事故前年の所得金額(固定費を含む) ÷ 365日 × 休業日数
自営業者が確定申告をしていた場合は、確定申告書の控えに記載されている所得金額から計算します。
たとえば、事故前年の所得金額が600万円で、休業日数が30日とすると、休業損害は約49万円となります。
なお、もし確定申告をしていなかった場合には、通帳の入金状況などを確認して算出した金額を参考にして、休業損害を計算していきます。
3-3.専業主婦・主夫の計算方法
収入がない専業主婦・主夫(家事従事者)であっても、家事労働は、賃金に換算できる労働と認められています。
そのため、ケガの影響で家事に従事できないといった場合は、休業損害の請求が認められます。
家事従事者は、次の計算式で休業損害を計算します。
賃金センサスから算出された基礎収入額 × 休業日数
「賃金センサス」とは、厚生労働省が毎年まとめている資料で、一般労働者や短時間労働者に関する賃金の推移がわかります。
このうち、家事従事者の休業損害を計算する場合は、全年齢女子平均年収を参考にすることが一般的です。
なお、男性と女性とで平均賃金が異なるため、公平性を担保するため、主夫であっても、女性の平均賃金を用いることになります。
3-4.アルバイト・パートの計算方法
雇用形態がアルバイトやパートであったとしても、休業損害を請求することができます。
この場合の計算方法は、基本的には会社員と同じで、事故前3か月分の収入から日額を求めます。
事故前3か月分の給与の合計額 ÷ 90日 × 休業日数
しかし、被害者の稼働日数(勤務日)によっては、低額の休業損害になってしまうことが予想されるため、90日ではなく、実際の稼働日数で割る場合もあります。
アルバイトやパートでも、勤務先に休業損害証明書を書いてもらい、源泉徴収票などもあわせて提出するようにしましょう。
なお、前述した家事従事者がパートとして働いていた場合には、賃金センサスの平均金額と、実際の収入をもとに算出した日額のうち、高額な方で計算していきます。
3-5.無職の場合の計算方法
事故時に無職であっても、次の条件に当てはまるような場合は、休業損害の請求が認められることがあります。
・事故前後に内定を受けていたとき
・事故がなければ、働いていた蓋然性があるとき
すでに内定を受けていた場合は、内定通知書などを提出することにより、証明することができます。
また、事故直後は無職でも求職活動中である場合には、企業とのメールなどのやり取りや履歴書、職務経歴書などで、就労の可能性を証明できる場合があります。
これらの書面により、上記の請求条件に該当すると判断された場合には、次の計算式で休業損害を計算します。
●内定を受けていた場合
就職予定先の給与推定額、または、賃金センサスで日額を算出
●就労の蓋然性がある場合
失業前の収入額、または、賃金センサスで日額を算出
上記の方法で求めた日額に、休業日数をかけることで、休業損害を算出できます。
4.休業損害の請求は弁護士に相談
このように、適用される算定基準により休業損害の計算方法は異なりますし、日額の金額を正しく算出するのにも、判断が難しいことがあります。
休業損害で損をしてしまうことがないよう、休業損害の請求は弁護士に相談することをおすすめします。
なお、基準の詳しい解説については、下記のQ&Aにまとめておりますので、あわせてお役立てください。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。