慰謝料
任意保険基準とは何ですか?
交通事故の加害者側の任意保険会社が、慰謝料などの損害賠償金を計算する際に使う算定基準です。法的に認められる金額より低いことが大半なので、保険会社から提示された金額に不満があれば弁護士に相談してください。
0.そもそも任意保険とは
自動車やバイクなどに関する保険には、大きく分けて「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。
このうち、自賠責保険は、すべての自動車やバイク(二輪自動車)、原動機付自転車(原付)に加入が義務付けられる強制保険です。
そして、任意保険は、加入するかどうかを文字通り個人が任意に決める保険で、加入が強制されるわけではありません。
交通事故に遭って負傷したとしても、加害者は原則として自賠責保険に加入しているので、被害者は何らかの補償を受けることができます。
しかし、自賠責保険は、被害者に対する最低限の補償を目的としているため、事故によって生じた損害に対し、必ずしも十分な補償ができるとは限りません。
任意保険は自賠責保険よりも補償内容が非常に幅広いので、自賠責保険だけでは不十分な補償をカバーすることができます。
1.任意保険の加入率は75%以上
自動車やバイクなどを運転する多くの方は、自賠責保険だけでなく、任意保険にも加入しています。
損害保険料率算出機構によると、2022年3月末時点での任意保険の加入率は75.4%です(対人賠償)。
このように、自動車やバイクなどを運転する大半の人が任意保険に加入しているため、ほとんどの被害者は、加害者が加入する任意保険会社に対して損害賠償を請求することになります。
そして、任意保険会社が損害賠償金を計算するときに使用するのが任意保険基準です。
2.任意保険基準とは
任意保険基準とは、保険会社が損害賠償金の金額を計算するために使う算定基準です。
任意保険基準は、各保険会社が独自に定めているので、基準の詳細は一般的には公開されていません。
しかし、後述するように、弁護士基準にもとづいた金額よりも低額であるケースが大半なので、保険会社から提示された金額を安易に受け入れるべきではありません。
提示額に不満がある場合は、示談交渉を通じて保険会社に増額を求めることになります。
そして、損害賠償金の算定基準には、任意保険基準以外に次の2種類があります。
- 自賠責基準
- 弁護士基準(裁判所基準)
どの基準で計算するかによって金額が異なり、次のような順番で並べることができます。
2-1.自賠責保険基準
交通事故の加害者が任意保険に加入していない場合、被害者は加害者が加入する自賠責保険から補償を受けることになります。
この自賠責保険において、損害賠償の金額を計算する際に使われる算定基準を自賠責基準と呼びます。
すでに説明した通り、自賠責保険が交通事故の被害者に対する最低限度の補償を目的としているため、自賠責保険は3種類の基準のなかで最も低額です。
そして、任意保険基準で計算した損害賠償金の金額は、自賠責基準と同等程度か、若干高い程度であることが一般的です。
自賠責基準については、次のQ&Aで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
2-2.弁護士基準(裁判基準)
弁護士が保険会社に損害賠償を請求する際、計算に使われる基準です。裁判所も同様の基準を使うことから、裁判所基準とも呼ばれます。
3種類の基準の中で最も高額な基準であり、損害賠償の金額を大幅に増額できるケースも少なくありません。
3.むち打ちで3か月通院。保険会社が提示する慰謝料の金額は?
交通事故でケガを負い、病院に通院して治療を受けた場合、加害者側の任意保険会社に対し、入通院慰謝料(傷害慰謝料)を請求することができます。
そして、慰謝料の金額は保険会社から示談交渉の場で提示されることが一般的です。
交通事故により生じやすいケガにはさまざまな種類がありますが、その中でも生じるケースが多いケガのひとつがむち打ちです。
むち打ちは、突然の追突事故などで頸部(首)に大きな衝撃を受け、首に不自然な力がかかることで、痛みやしびれなどの症状が現れます。
むち打ちの治療期間は症状の程度によって異なりますが、一般的な目安としては3~6か月ほどです。
それでは、交通事故でむち打ちの被害に遭い、3か月にわたって通院した場合、任意保険会社から提示される慰謝料の金額を確認してみましょう。
3-1.自賠責基準と同等程度の金額の場合
任意保険基準の詳細は一般的には公開されていませんが、保険会社からは自賠責基準と同等程度の金額を提示する場合が多いです。
自賠責基準では、入通院慰謝料を次のように計算します。
対象日数 ✕ 1日あたり4,300円
※2020年3月31日以前の事故は、1日あたり4,200円で計算します。
そして対象日数は、次の日数のうち短い方です。
- 治療の開始から終了までの日数(総治療期間)
- 実際に病院で治療を受けた日数(実治療日数) ✕ 2
たとえば、むち打ちで3か月(90日)にわたって通院し、実治療日数が20日だった場合、実治療日数を2倍した日数は40日で、総治療期間より短いので、対象日数は40日となります。
実治療日数が50日だった場合、2倍すると100日となり、総治療期間の方が短くなるので、対象日数は90日となります。
3か月(90日)にわたって通院したケースで、実治療日数ごとの入通院慰謝料の金額は次の通りです。
なお、50日以降は総治療期間(90日)で計算するため、同じ金額となります。
実治療日数 | 入通院慰謝料 |
---|---|
10日 | 8.6万円 |
20日 | 17.2万円 |
30日 | 25.8万円 |
40日 | 34.4万円 |
50日 | 38.7万円 |
3-2.旧任意保険基準により計算する場合
現在の任意保険基準は各保険会社が独自に定めていますが、1990年代後半までは各社が統一の基準(旧任意保険基準)を使用していました。
そして自動車保険の自由化に伴い、1998年から慰謝料などの損害賠償金の算定基準を各社が自由に設定するようになったのです。
なお、現在も旧任意保険基準をベースにしている保険会社もあるため、旧任意保険基準による入通院慰謝料の金額もご紹介します。
旧任意保険基準では、通院した月数に応じて慰謝料の金額が決められます。
通院月数 | 入通院慰謝料 |
---|---|
1か月 | 12.6万円 |
2か月 | 25.2万円 |
3か月 | 37.8万円 |
4か月 | 47.9万円 |
5か月 | 56.7万円 |
6か月 | 64.3万円 |
7か月 | 70.6万円 |
8か月 | 76.9万円 |
9か月 | 81.9万円 |
10か月 | 86.9万円 |
11か月 | 90.7万円 |
12か月 | 93.2万円 |
3か月にわたって通院したケースでは、旧任意保険基準による入通院慰謝料は37.8万円です。
自賠責基準による計算結果も踏まえると、むち打ちで3か月にわたり通院した場合、高くても38.7万円が入通院慰謝料として保険会社から提示されると考えてよいでしょう。
4.弁護士基準で計算するとどの程度の増額になる?
それでは、むち打ちにより3か月間、通院した同じケースにおいて、最も高額な基準である弁護士基準(裁判所基準)で計算すると、保険会社の提示額よりどの程度の増額になるでしょうか?
弁護士基準も旧任意保険基準と同様に、通院した月数によって入通院慰謝料の金額が決まります。
算定基準は骨折などの重症用(別表Ⅰ)と、他覚所見のないむち打ちなどの軽症用(別表Ⅱ)に分かれており、ここでは軽症用の算定表を使います。
通院月数 | 入通院慰謝料 |
---|---|
1か月 | 19万円 |
2か月 | 36万円 |
3か月 | 53万円 |
4か月 | 67万円 |
5か月 | 79万円 |
6か月 | 89万円 |
7か月 | 97万円 |
8か月 | 103万円 |
9か月 | 109万円 |
10か月 | 113万円 |
11か月 | 117万円 |
12か月 | 119万円 |
3か月にわたって通院した場合、弁護士基準による入通院慰謝料は53万円です。
保険会社からは高くても38.7万円が提示されると思われますので、弁護士基準では14万円以上の増額となる可能性があります。
実治療日数などによっては、さらに金額差が大きくなる場合もあるでしょう。
5.慰謝料の金額に不満があれば弁護士にご相談を
入通院慰謝料を弁護士基準で計算すると、加害者側の任意保険会社から提示された金額の増額交渉をすることができます。
また、ここでは入通院慰謝料の金額のみを比較しましたが、後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料や、被害者が亡くなった場合の死亡慰謝料でも、保険会社の提示額よりも大幅な増額が期待できます。
本来、弁護士基準で計算した慰謝料の金額が認められるべきですので、保険会社の提示額をそのまま受け入れると、損をしてしまうことになります。
保険会社の提示額に不満がある場合、示談交渉を通じて弁護士基準による金額まで増額するよう求めることになります。
しかし、支払額を抑えたい保険会社が増額に応じることはほぼありません。
弁護士基準や裁判所基準といわれるように、弁護士が増額を交渉するか、裁判を起こさなければ、増額は認められないと考えてよいでしょう。
被害者自身で裁判を起こすことも、手続き上は不可能ではありませんが、証拠を揃えて法廷で出頭し、法的な主張を戦わせる必要があり、増額を認めてもらうのは非常に困難です。
この点、交通事故に詳しい弁護士に依頼することで、増額すべき理由を適切な証拠とともに法的な視点から主張してくれます。
そして、裁判になれば増額を認める判決が出る可能性が高いため、保険会社は裁判にかかる手間を避けるべく、交渉段階で増額に応じるケースが多いです。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、保険会社との示談交渉により損害賠償金の増額に成功した実績が豊富です。
経験豊富な弁護士とスタッフによる交通事故の専門チームが、事故直後から最終的な示談に至るまで、全力でサポートしますので安心してお任せください。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。