休業損害
サラリーマン・会社員(給与所得者)の休業損害は、どのように計算されますか?
事故前3か月分の給与の合計金額を90日で割った金額(1日あたりの基礎収入)に、実際に休業した日数をかけることで計算します。
0.休業損害とは
休業損害とは、加害者側に請求できる損害賠償金の一種で、交通事故のケガにより仕事を休んだことで減少した収入を補償するお金です。
サラリーマン・会社員などの給与所得者が、通院のために会社を休んだことで給料が減った場合、休業損害を加害者側に請求できます。
1.休業損害の計算に使われる3つの基準
休業損害の計算方法には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」という3種類の基準があります。
どの基準で計算するかによって金額が異なり、次のような順番で金額が大きくなります。
弁護士基準 > 任意保険基準 ≧ 自賠責基準
1-1.自賠責基準で計算した場合
最も低額な基準である自賠責基準は、加害者の自賠責保険が損害賠償金を計算するときに使用する基準で、休業損害の計算式は次の通りです。
1日あたり6,100円 ✕ 休業日数
自賠責基準では、実際の収入にかかわらず1日あたり6,100円で計算するため、治療のために生じた減収分が正しく反映されない可能性があります。
ただし、6,100円を超える減収が発生していることを証明できれば、1日あたり1万9,000円を限度に請求することも可能です。
1-2.任意保険基準で計算した場合
任意保険基準は、加害者が加入している任意保険会社が損害賠償金を計算する際に使う基準です。
各保険会社が独自に支払基準を定めているため、具体的な内容は非公開ですが、自賠責基準と同等程度の金額であるケースが多いです。
1-3.弁護士基準(裁判所基準)で計算した場合
弁護士基準は、被害者が依頼した弁護士が、加害者側に損害賠償金を請求する際、計算に用いる基準です。
裁判所でも同様の基準が使われているので、「裁判所基準」とも呼ばれます。
弁護士基準による休業損害の計算方法は次の通りです。
1日あたりの基礎収入 ✕ 休業日数
弁護士基準では、実際の収入をベースに休業損害を計算します。
自身の収入を踏まえ、自賠責基準で計算した休業損害の金額を明らかに上回る場合は、弁護士基準で計算した休業損害を請求した方がよいでしょう。
なお、1日あたりの基礎収入については、サラリーマンや自営業者など、被害者の職業によって計算方法が異なります。
2.基礎収入の計算方法
被害者がサラリーマンの場合、1日あたりの基礎収入は次のように計算します。
事故前3か月分の給与の合計額 ÷ 90日
たとえば、事故前の3か月間で合計135万円の給与を得ていた場合、1日あたりの基礎収入は1.5万円(135万円 ÷ 90日)です。
そして、1.5万円に休業した日数をかけることにより、休業損害を計算できます。
2-1.給与の合計額を稼働日数で割る場合も
被害者がサラリーマンの場合、基本的には事故前3か月分の給与の合計を90日で割ることで、1日あたりの基礎収入を計算します。
しかし、この計算方法では、土日祝日なども休まずに働いていることになるため、1日あたりの基礎収入を正しく計算できていないとも考えられます。
そのため、90日ではなく稼働日数で割った金額が、1日の基礎収入として認められる場合もあります。
たとえば、事故前の3か月間で合計135万円の給与を得ており、稼働日数が60日だった場合、1日あたりの基礎収入は2.25万円(135万円 ÷ 60日)です。
休業日数が20日だとすると、事故前3か月分の給与の合計額を90日で割るか、稼働日数(60日)で割るかによって、休業損害の金額は次のような差が生じます。
- 事故前3か月分の給与の合計額を90日で割る場合
135万円 ÷ 90日 ✕ 20日 = 30万円 - 事故前3か月分の給与の合計額を稼働日数(60日)で割る場合
135万円 ÷ 60日 ✕ 20日 = 45万円
ただし、加害者側の保険会社は少しでも支払金額を抑えるため、休業損害の計算方法について争ってくる可能性があります。
納得できる金額を獲得したい場合は、交通事故に詳しい弁護士に交渉を依頼することをおすすめします。
2-2.各種手当やボーナスの考え方
基礎収入を計算する際の給与は、実際に振り込まれた金額をベースにする必要はありません。
差し引かれた社会保険料や所得税、支給された各種手当や残業代なども含めた総支給額が計算の対象となります。
また、治療のために仕事を休んだことで、ボーナス(賞与)が減額されてしまうケースもあるでしょう。
会社に「賞与減額証明書」を作成してもらい、ボーナスの減額について証明することで、休業損害として加害者に請求できます。
2-3.被害者が入社直後の場合
勤務開始から1か月や2か月で事故に遭った場合、事故前3か月分の給与をもとに基礎収入を計算することができません。
このようなケースでは、雇用契約書や賃金台帳などを参考にして計算する場合があります。
3.休業日数の考え方
休業損害を計算するうえで、基礎収入ともに必要となる休業日数は、治療のために実際に休んだ日数により計算します。
たとえば、事故の発生からケガの治癒、または症状固定まで2か月(60日)かかっても、実際に休んだ日数が20日なら、休業日数は60日ではなく20日で計算します。
3-1.治療で有休を取得した日も対象
治療のために有給休暇を取得した場合、収入は減少しませんが、有給休暇を休業日数に含めて請求することができます。
有休は本来、自由に取得できますが、交通事故に遭わなければ使わなかった有休を、ケガの治療のために使うことになったと考えられるからです。
3-2.遅刻・早退して治療を受けた場合
治療のために終日休むのではなく、遅刻や早退した日も休業損害の対象です。ただし、半休を取得したのであれば、基礎収入を半日分に換算するなど、出勤した時間分は除外して計算します。
3-3.自宅療養は医師の指示が重要
病院で治療を受けるのではなく、自宅療養のために仕事を休んだ場合、休業損害の対象となるかどうかは、医師の指示の有無が影響します。
医師の指示を受けて自宅療養したのであれば、休業損害の対象になる可能性があります。
しかし、自己判断で休んだ場合は、請求が認められないケースがあるので注意しましょう。
4.休業損害を請求する方法
休業損害は、加害者側の保険会社と示談交渉を始めるタイミングで請求することが一般的です。
また、治療が長引き減収も長期化しているようなケースでは、生活に支障が出る可能性があるため、月ごとに請求することも可能です。
休業損害を請求するための大まかな流れは次の通りです。
- 加害者側の保険会社から「休業損害証明書」の用紙が送られてくる
- 勤務先(総務部や人事部など)に「休業損害証明書」への記入を依頼する
- 源泉徴収などの必要書類とともに休業損害証明書を保険会社に提出する
4-1.休業損害証明書の用紙が送られてこない場合
保険会社から休業損害証明書の用紙が送られてこない場合、保険会社に連絡して請求しましょう。
また、保険会社のホームページから、用紙をダウンロードできる場合もあります。
4-2.休業損害証明書に記入してもらえない場合
「記入方法が分からない」「忙しくて記入する時間がない」などの理由で、勤務先が休業損害証明書への記入に協力してくれないケースもあるようです。
このような場合、休業損害証明書の代わりになる書類を提出することで、休業損害を請求できる場合があります。
たとえば、給与明細書やタイムカードなど、収入と勤務状況がわかる書類です。
しかし、休業損害の請求は、基本的に休業損害証明書の提出によって行うので、代わりの書類では保険会社が請求に応じてくれない可能性もあります。
そのため、休業損害証明書への記入に協力してもらえない場合は、弁護士に相談し、必要な対応を依頼することをおすすめします。
5.休業損害に関する悩みは弁護士に相談を
「非常に低い金額を提示してきた」「まだ治療中なのに支払いを打ち切ると言ってきた」など、休業損害に関する保険会社の対応に不満を感じるケースは少なくありません。
納得できる休業損害を受け取るためには、保険会社と交渉し、休業損害の増額や支払いの延長などを求めることになります。
しかし、ケガの治療を受けながら、交通事故と交渉の専門家である保険会社を相手に議論するのは非常に大変です。
希望通りの解決を目指すためには、交通事故に詳しい弁護士に相談し、交渉を依頼することが必須といえるでしょう。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。