重過失 [じゅうかしつ]
- 意味
- 交通事故においては、基本の過失割合を修正するための要素のひとつを意味します。一例として、酒酔い運転や居眠り運転など、故意に匹敵するほどの悪質な過失が該当します。
- 解説
交通事故の発生について、被害者にまったく責任(過失)がないケースもあれば、何らかの責任がある場合も少なくありません。
加害者と被害者のそれぞれにどの程度の過失があるかを数値化し、割合で示したものを「過失割合」と呼びます。たとえば、被害者にまったく過失がない場合の過失割合は「0:100」、30%の過失があれば「30:70」となります。
そして、過失割合に応じて損害賠償金の金額を調整します。これを「過失相殺」と呼びます(民法第722条2項)。交通事故によって、被害者に200万円の損害が発生した場合、被害者に過失がまったくない、つまり、過失割合が0%なら200万円の損害賠償が認められます。
被害者に30%の過失割合が認められた場合、損害賠償金も30%減額されて140万円となります。「重過失」は、事故の発生にかかわる個別具体的な事情を踏まえ、過失割合を調整するための「修正要素」のひとつです。
酒酔い運転や無免許運転など、故意に匹敵するほどの悪質な過失が「重過失」にあたり、重過失が認められると過失割合が上乗せされます。過失割合が決まるまでの流れ
過失割合は、事故の当事者(被害者と加害者)、または、それぞれが依頼した代理人(保険会社や弁護士)が交渉によって決めます。
具体的には、次のような流れで決めていきます。- 基本の過失割合を確認する
- 過失割合の修正要素を確認する
- 事故の当事者(代理人)間での交渉により割合を決定する
基本の過失割合を確認する
過失割合は、交通事故に関するこれまでの裁判で認められてきた結果などをもとに、「基本の過失割合」として整理・蓄積されています。
そして、基本の過失割合は、交差点での自動車同士や自動車とバイクの事故、横断歩道での歩行者と自動車の事故など、大まかな事故類型ごとに定められています。過失割合を決める際は、事故類型ごとに定められた基本の過失割合を確認することから始まります。
基本の過失割合は、「別冊判例タイムズ38号」や「赤い本」(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)にまとめられています。過失割合の修正要素を確認する
基本の過失割合は、さまざまな交通事故のシチュエーションに対して定められています。
しかし、スマートフォンを見ながら運転していた、スピード違反があったなど、事故発生の原因となる背景はそれぞれ異なります。そのため、基本の過失割合だけでは、被害者と加害者の過失を適切に反映できないケースが少なくありません。
事故の個別具体的な状況に応じた適切な過失割合にするため、さまざまな事情を踏まえて割合を調整することになります。繰り返しになりますが、過失割合を調整するための事情を「修正要素」と呼び、「重過失」は修正要素のひとつです。
重過失とは、故意に事故を起こした場合に匹敵するほどの悪質な過失のことであり、たとえば、次のような行為が重過失に該当します。- 酒酔い運転(アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある状態)
- 居眠り運転
- 無免許運転
- おおむね時速30㎞以上の速度違反(高速道路を除く)
- 過労、病気、薬物などの影響で正常な運転ができないおそれがある状態での運転
- 高速道路でのヘルメット不着用(バイク事故)
そして、重過失が認められた場合、基本の過失割合に対して20%が上乗せされます。
重過失と似たような意味を持つ用語として、「著しい過失」があります。
著しい過失とは、重過失ほどではないものの、通常想定されている程度を越えるような過失のことです。
著しい過失が認められると、基本の過失割合から10%が上乗せされます。たとえば、脇見運転などの著しい前方不注意や、酒気帯び運転、おおむね時速15㎞以上30㎞未満の速度違反(高速道路を除く)などの行為が該当します。
事故の当事者(代理人)間の交渉により割合を決定する
過失割合は、示談交渉の場で加害者側の保険会社から、割合を踏まえて計算された損害賠償金の金額とともに提示されることが一般的です。
「なぜか自分に重過失が認められた」とか「加害者が居眠り運転をしていたのに、重過失が認められていない」など、保険会社が提示した過失割合に不満を感じるケースが少なくありません。
過失割合に不満がある場合、基本の過失割合や修正要素を確認し、裏付けとなる資料を集めたうえで、数値の見直しを保険会社に対して求めることになります。しかし、支払金額を少しでも抑えたい保険会社は、過失割合の見直しに応じようとしないことが考えられます。
また、保険会社は交通事故と交渉の専門家なので、証拠を用意して、提示した過失割合に間違いはないと主張してくるなど、一般の方が議論するのは非常に困難です。この点、交通事故に詳しい弁護士に依頼し、保険会社との交渉を任せれば、過失割合を正しく判断し、法的な視点から数値の見直しを保険会社と交渉してくれます。
また、慰謝料などを計算する際に用いる算定基準は、保険会社が計算する場合と、弁護士が計算する場合で異なります。
弁護士が計算する際に用いる算定基準の方が高額な計算結果となるため、交渉を任せることで損害賠償金の増額も期待できます。
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