交通事故の物損事故で請求できる損害賠償の内容を弁護士が解説

交通事故のよくあるご相談Q&A(FAQ)

修理費用

Q.uestion

物損事故では、どのような損害を請求できますか?

弁護士 大橋史典
弁護士 大橋史典
Answer

物損事故の被害に遭った場合、壊れた物の修理代を中心に、さまざまな諸費用を請求することができます。

0.物損事故とはどのような事故?

物損事故とは、交通事故で自動車や積荷、所持品などが壊れたり、傷ついたりしたものの、死傷者が発生しなかった事故のことです。

物損事故では、壊れた物の修理代や、自動車などの修理中に代車を使った際の代車費用、自動車をレッカー移動させた場合のレッカー代なども加害者側に請求できます。

1.物損事故で請求できる賠償金の内容

物損事故の被害に遭った場合、自動車などの修理費用以外にも、たとえば、以下のような諸費用を加害者に対して請求することができます。

  • 修理費用
  • 買い替え費用
  • 登録手続関係費
  • 代車費用
  • 評価損
  • 休車損害
  • レッカー代
  • 積荷などの損害

1-1.修理費用

交通事故で車両などが破損した場合、加害者に修理費を請求できます。
ただし、修理費用が事故当時の車両などの時価額を上回っていた場合、請求できるのは時価額までとなります。

もちろん、事故と無関係な損傷を修理したり、事故前のグレード以上の部品に交換したりするなど、損害の回復限度を超えた過剰な修理費用は支払われません。

1-2.買い替え費用

自動車などが修理できないくらいに破損した状態(物理的全損)、または、修理しても経済的に無意味な状態(経済的全損)の場合、買い替え費用を請求できます。

いずれの状態も、事故当時の車両などの時価額を上限として、加害者に請求することができます。

1-3.登録手続関係費

全損により自動車などの買い替えが必要になった場合、買い替えのために発生した諸費用(登録手続関係費)を請求できます。
たとえば、自動車取得税や車庫証明費用、廃車費用などが該当します。

1-4.代車費用

自動車の修理期間中や買い替えまでの間にレンタカーを使う必要がある場合、代車費用を請求できます。
代車費用は代車を使う必要性があり、修理や買い替えに必要な期間の範囲に限り認められます。

一般的に、代車が必要な期間は、修理の場合で1週間~2週間、買い替えの場合で1か月ほどと考えられています。

1-5.評価損

自動車を元通りに修理できたとしても、事故前と比較すると、車両の市場価値が減少してしまうことが一般的です。
修理により市場価値が減少した分を「評価損」と呼び、加害者に請求できる場合があります。

ただし、保険会社は、自動車の初度登録から複数年が経過していることなどを理由に評価損を認めず、支払いに応じないケースが少なくありません。

事故で修理した車両は、事故前の車両に比べて市場価値が下がってしまう。

1-6.休車損害

タクシーやバスなどの営業車両が事故で破損した場合、事故により得られなかった利益を休車損害として請求できます。
請求額は事故車で得ていた収入、修理や買い替えにかかった日数などを考慮して算出します。

なお、事故日以降も事故車を使用する業務がある、事故車の穴埋めが可能な予備の車両(遊休車)がないといった条件を満たさなければ、休車損害は認められません。

1-7.レッカー代

事故で自動車が破損し、自走が困難になり、車両を移動させるためにレッカー車が必要になった場合は、レッカー代を請求できる場合があります。

1-8.積荷などの損害

トラックに積まれていた荷物や、車内にあったパソコンやスマートフォン、身に付けていた衣類やメガネなどが事故で破損した場合も、修理費用や事故当時の評価額を損害として請求できます。

ただし、交通事故が原因で破損したという因果関係の証明が難しい場合、保険会社が支払いを認めず、適切な金額を支払わないケースもあります。

2.物損事故では慰謝料の請求は原則できない

物損事故の被害については、原則として慰謝料を請求することはできません。
交通事故における慰謝料は、ケガをして入院したり、後遺障害が残ったりしたことへの精神的な苦痛に対する損害賠償だからです。

ただし、極めて例外的ですが、慰謝料が支払われる可能性もゼロではありません。
たとえば、事故で飼い犬が後肢麻痺の障害を負ったため、飼い主が日常的に排泄の介護が必要になったケースで、飼い主2名に20万円ずつ認められました(名古屋高裁平成20年9月30日判決)。

このほか、霊園内で運転の操作を誤ったことで墓石を損壊したとして10万円の慰謝料が認められたケースもあります(大阪地裁平成12年10月12日判決)。

ただし、物損事故で慰謝料が認められるか否かは、様々な事情を総合的に考慮し、裁判所が個別具体的に判断して決められます。
同様の事故が起きた場合でも、必ず慰謝料が認められるわけではない点に注意しましょう。

3.物損事故は弁護士にご相談を

物損事故で損害賠償を請求しても、評価損や所持品の修理費用を認めないなど、支払い額を抑えるために保険会社が低い金額を提示するケースがあります。

ただし、適切な金額を算出するには法的な専門知識が求められますし、交通事故の対応を専門にしている保険会社に対し、対等な立場で増額交渉するのは非常に困難です。
そのため、交通事故に詳しい弁護士に交渉を依頼することをおすすめします。

物損事故は原則として慰謝料が支払われないため、人身事故よりも賠償額が低額になり、弁護士費用を支払うことで金銭的に損してしまう「費用倒れ」が発生する可能性があります。

しかし、自動車保険や火災保険の特約として「弁護士費用特約」を付帯してれば、弁護士費用が保険から支払われるため、費用倒れを心配することなく弁護士への相談・依頼が可能です。

4.ケガしていたら人身事故への切り替えが必要

万が一、実際は交通事故でケガしたにもかかわらず、軽傷だったため警察が物損事故として処理したり、加害者から「物損事故として処理したい」と頼まれたりするケースがあります。

物損事故として処理されると治療費や慰謝料を請求しても認められない可能性があります。そのため、人身事故に切り替えてもらう方が望ましいです。
人身事故への切り替えには様々な手続きが必要になるので、弁護士に相談しましょう。

なお、物損事故から人身事故に切り替える手続きについて、下記のQ&Aでより詳細に解説しております。ぜひこちらもお役立てください。

弁護士 大橋史典
弁護士 大橋史典
この記事を監修した弁護士

弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)

獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。

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