手続き
物損事故から人身事故に切り替えるためには、どうしたらいいですか?
病院で診断書を作成してもらい、警察に提出して人身事故への切り替えを依頼します。警察が切り替えを認めると、実況見分が行われ、人身事故を証明する交通事故証明書を入手できるようになります。
0.物損事故と人身事故の違い
交通事故には、大きく分けて物損事故と人身事故の2種類があります。
物損事故は、交通事故で車両や所持品などが壊れたり傷ついたりしたものの、死傷者が発生しなかった事故で、人身事故は死傷者が発生した事故のことです。
実際はケガをしたのに、目立った外傷がなかったため警察が物損事故として扱ったり、物損事故として処理するよう加害者から頼まれたりすることがあります。
また、むち打ちなどは、事故の数時間後や数日後に痛みやしびれといった症状が出ることがあり、事故直後は症状がなかったため、物損として扱われてしまうケースもあります。
事故によりケガをしたのに物損事故として扱われている場合は、人身事故に切り替える手続きを進めましょう。
1.人身事故に切り替えた方がよい理由
交通事故でケガをした場合、加害者に対して治療費や慰謝料を請求することができます。
しかし、物損事故として扱われたまま、人身事故に切り替えていないと、事故によるケガではないとして、支払いを拒否される可能性があります。
また、物損事故では、事故の状況を詳しく説明した実況見分調書を警察が作成しません。
そのため、慰謝料が支払われたとしても、実際の被害よりも少額しか受け取れないことも考えられます。
そのため、もしケガをしている場合、適切な損害賠償金を受け取るためには、人身事故に切り替える必要があるのです。
さらに、物損事故を起こしても、スピード超過や飲酒運転といった違反行為がなければ、原則として、懲役や罰金といった刑事処分、運転免許の違反点数加算といった行政処分の対象になりません。
もし、加害者に対して相応の処分を受けて欲しいと考えているのであれば、やはり人身事故に切り替えることが重要です。
2.物損事故から人身事故に切り替える流れ
物損事故から人身事故へ切り替える手続きは、大きく次のような流れで進められます。
2-1.病院を受診し、医師に診断書を作成してもらう
人身事故に切り替えるには、ケガしたことを証明するための診断書が必要です。
まずは病院に行き、医師の診察を受けて診断書を作成してもらいましょう。
医師には、交通事故の発生日や状況、いつから症状が出たか、身体のどこに症状があるかなどを説明します。
そして、事故が原因のケガであること(ケガと事故との因果関係)がわかるように記載してもらうことが大切です。
また、症状にあった診療科を受診することも重要なので、事前にどの科に行くとよいのか確認しておくとよいでしょう。
たとえば、骨折や打撲、捻挫なら整形外科、頭部のケガなら脳神経外科または神経内科などです。
診断書の作成には費用がかかります。金額は病院によって異なりますが、3,000円から5,000円ほどのケースが多いようです。
診断書の作成にかかった費用は加害者に請求できるので、領収書を控えておきましょう。
また、診断書を作成できるのは医師だけです。整骨院や接骨院では作成してもらえないので注意しましょう。
2-2.警察に書類を提出する
診断書を受け取ったら、事故を処理した警察署を訪れて提出します。
急に警察署へ行っても対応してもらえない可能性があるので、事前に連絡し、物損事故から人身事故への切り替えを希望する旨を伝えましょう。
また、診断書以外の資料を提出するよう求められる場合があるため、連絡する際は、必要な持参物を確認してください。
なお、事故から日数が経過していると、事故とケガが無関係だと判断されて、切り替えを拒否される可能性があるので、早めに手続することが重要です。
人身事故へ切り替える手続きに厳密な期限はありませんが、事故発生から10日前後であれば、切り替えが認められるケースが多いので、診断書の作成も早めに進めるようにしましょう。
警察から「人身事故に切り替えるなら〇日以内に連絡してください」などと指定されている場合は、その期限に従うようにしてください。
2-3.実況見分が行われる
警察が人身事故への切り替えを認めると、被害者と加害者の立ち合いのもと、実況見分が行われます。
実況見分の結果を踏まえ、事故の状況などを詳しく説明する実況見分調書を警察が作成します。
実況見分調書は、加害者側と過失割合について話し合う場面などで重要な資料となるので、実況見分に立ち会う際、警察からの質問には正確に回答しましょう。
また、人身事故への切り替えが認められると、人身事故の発生を証明する「交通事故証明書」が自動車安全運転センターから発行されます。
交通事故証明書は、損害賠償金を請求するときなど、さまざまな場面で必要となる重要な書類です。
3.人身事故への切り替えが認められない場合
警察が物損事故から人身事故への切り替えを認めなかったとしても、絶対に治療費や慰謝料が認められないわけではありません。
加害者側の保険会社が事故とケガとの因果関係を認めれば、「人身事故証明書入手不能理由書」を加害者側の保険会社に提出することで、治療費や慰謝料の請求を請求できる場合があります。
人身事故証明書入手不能理由書とは、人身事故に関する記載がある交通事故証明書を入手できなかった理由について説明する書類です。
基本的には、加害者側の保険会社から用紙が送られてきますが、送られてこなければ、保険会社に連絡する、保険会社のホームページからダウンロードするなどの方法で用紙を入手し、必要事項を記入してください。
しかし、人身事故に切り替わっていないことを理由に、保険会社から治療費や慰謝料の請求を拒否される場合や、損害に対して非常に低い金額しか認められないことも考えられます。
保険会社の対応に不満がある場合は、弁護士にご相談ください。
納得できる損害賠償金の獲得に向け、保険会社との交渉などを任せることができます。
4.人身事故への切り替えは弁護士にご相談を
交通事故から数日後に痛みが出るなどして、物損事故から人身事故に切り替えたい場合、交通事故に詳しい弁護士にご相談することをおすすめします。
まずは人身事故に切り替えられるよう、病院の受診や警察への連絡など、必要な手続きの進め方についてアドバイスをしてくれます。
また、人身事故に切り替え後は、書類の作成や収集、保険会社とのやり取り、後遺障害が残った場合は等級認定の申請など、さまざまな手続きをすすめたうえで、保険会社との示談交渉に臨むことになります。
ケガの症状や通院で大変な思いをしているなか、自分で手続きを進めるのは大変な負担です。
また、保険会社から提示される賠償金は、法的に認められる金額より大幅に少ないケースが大半です。
そのため、示談交渉を通じて増額を求めることになりますが、交通事故と交渉のプロである保険会社に増額を認めさせるのは不可能に近いでしょう。
この点、弁護士に依頼すれば、必要な手続きを任せられるので治療に専念することができます。
さらに、示談交渉においても、弁護士であれば慰謝料などの算定基準が保険会社とは異なりますので、損害賠償金の増額が期待できます。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。