手続き
交通事故の刑事記録はどこで入手できますか?
刑事事件の捜査中や公判中など、加害者側の刑事手続きの段階によって入手方法が異なります。また、タイミングによっては入手できない場合があります。
0.刑事記録は過失割合の争いで重要な資料
刑事記録とは、交通事故の加害者に対する刑事裁判を行ううえで、事故の状況や被害の程度などを示す証拠となる資料のことです。
また、事故の被害者が、加害者や加害者が加入する保険会社に対し、損害賠償を請求するうえでも刑事記録が重要な資料となる場合があります。たとえば、事故の過失割合について加害者側と争いになる場面です。
過失割合とは、事故の発生に対し、被害者と加害者のそれぞれにどの程度の責任(過失)があるかを数値化したものです。停止中の追突事故などを除き、被害者にも何らかの責任があるケースは少なくありません。
被害者にも過失が認められる場合、過失割合に応じて賠償金額の減額が行われます。これを「過失相殺」と呼びます(民法第722条2項)。
過失割合は、示談交渉の場で賠償金の金額とともに保険会社から提示されることが一般的です。過失割合によって賠償金の金額も大きく異なってくるため、提示された数値に納得できなければ、見直しを求めることになります。
過失割合の見直しを求める際、事故の詳しい状況を説明し、被害者の主張を裏付ける証拠として刑事記録が役に立つ可能性があるのです。
1.入手すべき刑事記録は2種類
交通事故で作成される刑事記録には、さまざまな種類があります。加害者側と過失割合などについて争いが生じた際、特に重要な資料として入手した方がよいのは次の2種類です。
- 実況見分調書
- 供述調書
1-1.実況見分調書とは
死傷者が発生した人身事故が起きると、通報を受けた警察官が事故の状況を調べる実況見分を行います。実況見分の結果について詳しくまとめた書類が実況見分調書です。
具体的には、次のような内容が記載されます。また、事故現場の見取図や写真なども添付されます。
- 事故が発生した日時、天候
- 実況見分を実施した日時、天候
- 実況見分を行なった(事故が発生した)場所、道路の名前
- 道路の状況(路面の状況、見通しの良さ、信号の有無など)
- 車両の状況(車種や番号、サイズ、損害の部位や程度など)
- 立会人(被害者、加害者、目撃者)が証言した内容
1-2.供述調書とは
供述調書とは、警察官や検察官が、被害者や加害者、目撃者などから聴き取った事故に関する供述内容を記録した書面です。供述調書はそれぞれに作成されるため、誰がどのような供述をしたかが明らかとなります。
それぞれが供述した内容がそのまま記載されるので、被害者や加害者などの発言内容に食い違いが生じるケースもあります。
2.刑事記録の入手方法は手続きの段階によって異なる
実況見分調書と供述調書の入手方法は、加害者に対する刑事手続きが、次のどの段階まで進んでいるかによって異なります。また、手続きの段階によっては、そもそも入手することができない場合があります。
- 捜査中
- 不起訴処分後
- 公判中
- 判決確定後
3.捜査中
公判が開かれるまで、訴訟に関する書類は非公開とされています(刑事訴訟法第47条)。そのため、実況見分調書や供述調書を入手することはできません。
4.不起訴処分後
加害者が不起訴処分となった場合、実況見分調書と供述調書の入手方法が異なります。
4-1.不起訴時の実況見分調書の入手方法
実況見分調書は、交通事故証明書の内容から事故の詳細を確認したうえで、検察庁に開示請求することで入手できます。主に次のような方法で手続きを進めます。
- 交通事故証明書を入手し、事故の捜査を担当した警察署や、事故の発生日時と場所、加害者の氏名などを確認する
- 事故の捜査を担当した警察署に事故証明書の内容を伝え、事故を送致(送検)した検察庁や送致日、送検番号(検番)を確認する
- 送致先の検察庁に送致日や送検番号などを伝え、実況見分調書の閲覧を請求する
4-2.不起訴時の供述調書の入手方法
加害者が不起訴となった場合、供述調書はプライバシー保護の観点などから原則として入手することができません。例外として、民事訴訟を提起し、文書送付嘱託という手続きを進めることで入手できる場合があります。
文書送付嘱託とは、民事訴訟が係属する裁判所を通じて、開示を希望する文書の所持者から、その文書を裁判所へ送付してもらうための手続きです。文書送付嘱託の手続きを進め、次の要件をすべて満たした場合に供述調書が開示されます。
- 裁判所から、不起訴記録中の特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされた
- 供述調書の内容が、民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって、かつ、その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど、その証明に欠くことができない
- 供述者が死亡、所在不明、心身の故障もしくは深刻な記憶喪失などにより、民事訴訟においてその供述を顕出することができない、または、供述調書の内容が供述者の裁判所における証言内容と実質的に相反する
- 供述調書を開示することによって、捜査・公判への具体的な支障、または、関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく、かつ、関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるとは認められない
5.公判中
加害者に対する裁判が始まったら、審理が開かれている裁判所で実況見分調書や供述調書の閲覧・謄写を申請することができます。申請時の持参物を裁判所に確認したうえで、裁判所に備え付けの申請書に必要事項を記入するなどして申請します。
6.判決確定後
判決が確定した後は、検察庁に開示請求することで、実況見分調書や供述調書を入できます。加害者が不起訴となった場合に実況見分調書を入手する際と同様の方法で、手続きを進めます。
7.物損事故の場合
交通事故による死傷者が発生せず、車両や積荷、所持品などの物が壊れた物損事故の場合、警察による実況見分が行われません。そのため、実況見分調書も作成されず、事故の状況を簡単に記録した物件事故報告書のみが作成されます。
物件事故報告書を入手したい場合、検察庁や裁判所ではなく、事故の捜査を行なった警察署に連絡します。ただし、開示を求めても認められないケースが多いため、文書送付嘱託の手続きを進めるか、弁護士に相談するようにしましょう。
8.刑事記録の入手は弁護士にご相談を
実況見分調書や供述調書などの刑事記録は、過失割合を巡って加害者側と争いがあるようなケースで、自身の主張を証明するための重要な資料です。ただし、入手するには煩雑な手続きが必要ですし、加害者の刑事手続きのタイミングによっては入手できない場合もあります。
自分で手続きを進める自信がない、または負担が大きいような場合、弁護士に手続きを依頼してください。そして、刑事記録を入手した後は、過失割合などに関する加害者側との示談交渉を任せられます。
過失割合は、損害賠償金の金額に大きく影響します。そのため、加害者側の保険会社が提示した過失割合に不満があり、修正を求めたとしても簡単には応じてくれません。
この点、弁護士であれば適切な過失割合を判断し、刑事記録などの証拠をもとに法的な視点から過失割合の見直しを主張します。その結果、被害者に有利な数値に見直され、賠償金が増額される可能性が高まるのです。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。