等級認定
「後遺症」と「後遺障害」の違いは何ですか?
「後遺症」とは、ケガの治療を受けても心身に残ってしまう症状のことです。「後遺障害」は、後遺症のうち自動車損害賠償保障法施行令(自賠法施行令)に定められた症状に該当する障害のことです。
0.「後遺症」と「後遺障害」の違い
「後遺症」も「後遺障害」も、ケガの治療後に何らかの症状が残ってしまった状態を意味します。
そのため、後遺症と後遺障害が区別されず、同じような意味で使われる場合もあるようですが、交通事故においては意味が大きく異なります。
1.後遺症とは
後遺症は、一般的によく使われる言葉なのでご存じの方も多いかもしれませんが、ケガの治療を受けても心身に残ってしまう症状のことです。
後遺症には、ケガをした部位に痛みやしびれが残る、ケガをする前と同様に関節を動かせなくなる、筋力や視力といった身体的な機能が低下するなど、さまざまな症状があります。
2.後遺障害とは
後遺障害も後遺症と同様に、治療後も何らかの症状が残った状態を意味しますが、後遺症とは大きく異なる点があります。
具体的には、身体に残った後遺症が自動車損害賠償保障法施行令(自賠法施行令)に定められた障害に該当する場合、「後遺障害」の状態にあると判断される点です。
つまり、何らかの後遺症が残ったとしても、自賠法施行令に定められた障害に該当しなければ後遺障害にはあたりません。
3.後遺障害に該当すると何ができる?
交通事故でケガを負うと、治療費や入通院慰謝料(傷害慰謝料)、休業損害などを加害者側に請求することができます。
そして、後遺障害に該当する障害が残った場合、後遺障害の等級認定を受けることで後遺障害の慰謝料と逸失利益を別途請求することができます。
3-1.後遺障害慰謝料とは
後遺障害慰謝料は、加害者側に請求できる損害賠償金の一種で、後遺障害が残ったことで生じた精神的苦痛に対して認められるお金です。
後遺障害は、障害の程度や内容に応じて第1級から第14級(要介護状態は第1級と第2級)に分類されています。
そして、後遺障害慰謝料の金額は等級によって定められており、第1級が最も高額です。
なお、慰謝料の計算方法には、自賠責保険が計算に使う「自賠責基準」、任意保険会社が使う「任意保険基準」、弁護士(裁判所)が使う「弁護士基準(裁判所基準)」という3種類の算定基準があります。
どの基準を使って計算するかにより慰謝料の金額が大きく異なり、次のような順番で高額になります。
各等級の後遺障害慰謝料の金額を、最も高額な基準である弁護士基準と、最も低額な自賠責基準で確認してみましょう。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 | 1,150万円 (1,650万円) | 2,800万円 |
2級 | 998万円 (1,203万円) | 2,370万円 |
3級 | 861万円 | 1,990万円 |
4級 | 737万円 | 1,670万円 |
5級 | 618万円 | 1,400万円 |
6級 | 512万円 | 1,180万円 |
7級 | 419万円 | 1,000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
- ※自賠責基準の金額は多くのケースで使用する別表2の金額です。介護を要する後遺障害の場合は、カッコの中の金額(別表1)となります。
- ※この表は2020年4月1日以降に発生した交通事故に適用されます。
交通事故で負傷することが多いケガのひとつがむち打ちです。
治療を続けても痛みやしびれなどが残った場合、CTやMRI画像検査などで他覚所見が認められると第12級13号、認められなければ第14級9号の後遺障害に該当する可能性があります。
第12号の後遺障害に認定された場合の後遺障害慰謝料は、自賠責基準で94万円、弁護士基準で290万円です。
第14号の場合は自賠責基準で32万円、弁護士基準で110万円です。
3-2.後遺障害逸失利益とは
後遺障害が残ったことで、事故前と同様に働くことが難しくなってしまい、収入が減少したり、途絶えたりする可能性があります。
逸失利益とは、事故が原因で得られなくなった将来の収入のことで、後遺障害が残った場合、加害者側に後遺障害逸失利益を請求することができます。
逸失利益に関する詳細や計算方法などについては、次のQ&Aで解説しています。あわせてご覧ください。
4.後遺障害に該当する障害の内容
後遺障害に該当する障害の内容は、自賠法施行令によって等級ごとに定められており、等級の数字が小さくなるにつれて症状が重くなります。
等級ごとの具体的な障害の内容は、次の通りです。
等級 | 介護を要する後遺障害 |
---|---|
第1級 |
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第2級 |
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等級 | 後遺障害 |
---|---|
第1級 |
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第2級 |
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第3級 |
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第4級 |
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第5級 |
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第6級 |
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第7級 |
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第8級 |
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第9級 |
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第10級 |
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第11級 |
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第12級 |
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第13級 |
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第14級 |
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5.後遺障害に該当しない障害が残った場合(相当)
身体に残った障害が、自賠法施行令によって定められた後遺障害に該当しない場合でも、絶対に後遺障害として認められないわけではありません。 後遺障害には「相当」というルールがあり、各等級の後遺障害に相当する障害が残った場合、その等級に認定される可能性があります。
相当のルールが適用される可能性がある障害として、次のような症状があります。
嗅覚・味覚の減退 | 14級相当 |
嗅覚・味覚の脱失 | 12級相当 |
外傷性散瞳(目を打ち、瞳孔が開いたままになる状態) | 11級相当、12級相当、14級相当 |
上肢の動揺関節(関節がグラグラして安定しない状態) | 10級相当、12級相当 |
下肢の動揺関節 | 8級相当、10級相当、12級相当 |
ただし、どのような障害に対し、「相当」のルールが認められるかを判断するには、交通事故に関する専門知識が必要です。
治療を担当する医師が必ずしも交通事故に詳しいとは限らないので、弁護士に相談することをおすすめします。
6.後遺障害が2つ以上残った場合(併合)
たとえば、1回の交通事故で手と足にケガを負い、それぞれに後遺障害が残るなど、複数の後遺障害が残ってしまう可能性があります。
このような場合、「併合」というルールにより、1つの等級に認定されることになります。
具体的には、次のようなルールで併合が適用されます。
- 5級以上が2つ以上ある:もっとも重い等級を3級繰り上げる
- 8級以上が2つ以上ある:もっとも重い等級を2級繰り上げる
- 13級以上が2つ以上ある:もっとも重い等級を1級繰り上げる
- 14級が2つ以上ある:14級のまま
併合には、これらのルール以外にも複数の例外的なルールがあります。
等級認定を受けたものの、どのようなルールが適用されたのか分からない、認定結果に納得できないといった場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。
なお、後遺障害の併合については、次のQ&Aで詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
7.事故前からの障害が悪化した場合(加重)
交通事故に遭う前からあった障害が、事故によって悪化してしまうケースがあります。
このような場合、「加重」というルールが適用されます。
加重のルールでは、事故前の障害に対する保険金額から、事故によって悪化した障害に対する保険金額を差し引くことになります。
たとえば、事故前には14級に相当する障害があり、その障害が事故によって12級まで悪化した場合、12級の保険金額から14級の保険金額を差し引いた金額が支払われます。
8.後遺障害に関する悩みは弁護士に相談を
後遺障害の等級によって、慰謝料といった損害賠償金の金額が大きく異なるため、障害の程度に応じた適切な等級に認定されることが重要です。
後遺障害の等級認定はさまざまなルールがあり、自分の身体に残った後遺症が何級に相当するかを判断するには、専門的な知識が求められます。
医療に関する知識だけでなく、保険実務に関する知識も求められるため、医師であっても適切な等級を判断できるとは限りません。
この点、交通事故の取り扱い経験が豊富な弁護士であれば、医療や保険など、交通事故に関して幅広い知識を有しているため、適切な等級の判断が可能です。
損害賠償金で損をしないためにも、弁護士に相談し、対応を依頼することをおすすめします。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。