慰謝料
交通事故により入院・通院した場合、慰謝料はもらえますか?
交通事故でケガを負い入院や通院をした場合、入通院慰謝料(傷害慰謝料)を加害者へ請求することができます。
0.交通事故でケガをしたら入通院慰謝料を請求できる
交通事故でケガをした人が治療のために入院や通院をした場合、加害者やその保険会社に入通院慰謝料(傷害慰謝料)を請求することができます。
慰謝料の金額は、入通院にかかった期間や日数などが関係するため、適切に治療を受けることが重要です。
1.入通院慰謝料の算出基準
入通院慰謝料を計算する方法には、次の3種類の基準があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判所基準)
どの基準で算定をするかで慰謝料の金額が大きく異なり、次のような順番で並べることができます。
弁護士基準 > 任意保険基準 ≧ 自賠責基準
2.自賠責基準とは
すべての自動車などに加入が義務付けられている自賠責保険における損害賠償金の支払い基準です。
自賠責保険が被害者に対する最低限度の補償を目的としているので、3つの基準の中で低い金額になります。
2-1.自賠責基準による慰謝料の計算方法
現在の自賠責基準による入通院慰謝料は、原則として1日あたり4,300円です。
そして、対象となる日数は、治療の開始から終了までの日数にあたる入通院期間と、病院で実際に治療を受けた日数をもとに計算します。
具体的には、次の2つの計算式から、日数が少ない方の金額が支払われます。
- 通院期間 × 4,300円
- 実際の治療日数 × 2 × 4,300円
たとえば、交通事故で骨折して2か月(60日間)にわたり通院し、実際の治療日数が20日のケースでは、それぞれ次のように計算します。
60日× 4,300 = 25万8,000円
20日× 2 × 4,300 = 17万2,000円
このうち日数が少ない方が支払われるので、今回のケースでは17万2,000円となります。
2-2.治療期間の考え方
慰謝料の金額は、治療を受けた期間や治療を受けた日数に応じて決められます。
しかし、慰謝料を計算する際の基準となる治療開始日と治療終了日が、実際に治療を開始した日、または、終了した日と異なるケースがあるので注意しましょう。
治療の開始日の考え方
- 事故後7日以内に治療を開始した場合、事故日が治療開始日です。
- 事故後8日以降に治療を開始した場合、開始した日の7日前が治療開始日です。
治療終了日の考え方
- 「症状固定」となった場合、症状固定日が治療終了日です。
- 治癒日(ケガが治った日)が治療を終了した日から7日以内の場合、治癒日が治療終了日です。
- 治癒日が治療を終了した日から8日以降の場合、終了した日に7日を加算した日が治療終了日です。
- 自賠責保険が指定する診断書に「治癒見込」、「中止」、「転医」、「継続」と記載されている場合、終了した日に7日を加算した日が治療終了日です。
このように、自賠責基準で入通院慰謝料を計算する際、治療期間が7日間プラスされるケースがあります。
そして、慰謝料の対象となる日数も増えることから、慰謝料が増額となる可能性があります。
3.任意保険基準
加害者の任意保険会社が賠償金を計算する際に使う基準です。
保険会社が自社の支払基準により独自に定めているため、その基準は公開されていませんが、自賠責基準で計算した金額と同等程度であるケースが多いです。
4.弁護士基準(裁判所基準)
弁護士が保険会社に慰謝料などを請求する際、計算に使われる基準です。裁判所も同様の基準で計算することから、「裁判所基準」とも呼ばれます。
過去の交通事故に関する裁判で認められた金額をもとに設定されており、3種類の基準の中で最も高額なので、被害者に本来認められるべき基準ともいえます。
4-1.慰謝料の金額は入通院の月数で決まる
弁護士基準については、「赤い本」(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)という書籍で解説されています。
そして、慰謝料の金額は、何か月にわたり入通院したかに応じて、ある程度の金額が定められています。
また、算定基準が骨折などの重症用(別表Ⅰ)と、他覚所見のないむち打ちなどの軽症用(別表Ⅱ)に分かれており、具体的な金額は、次の表の通りです。
たとえば、交通事故で他覚所見がないむち打ちとなり、入院と通院の期間がそれぞれ3か月ずつだった場合、慰謝料は128万円となります。
また、骨折をして、2か月の通院をした場合の慰謝料は52万円です。
先ほど計算した自賠責基準では17万2,000円なので、弁護士基準で計算すると3倍以上も慰謝料が高くなることがわかります。
4-2.端数は日割り計算する
月数に端数が生じる場合、端数分は日割りで計算します。
たとえば、事故により他覚所見のないむち打ちとなり、130日間にわたって通院した場合で考えてみましょう。
まず、軽症用の算定表のうち、通院4か月間(120日)の慰謝料は67万円です。
そして、10日分の端数は、5か月間の慰謝料と4か月の慰謝料の差額を30日で割り、端数の日数分である10日をかけることで計算できます。
まず、5か月間の慰謝料と4か月間の慰謝料の差額は12万円(79万 – 67万)です。
次に、端数分の金額は4万円(12万 ÷ 30日 × 10日)です。
つまり、130日分の通院慰謝料は71万円(67万 + 4万)となります。
5.適切な入通院慰謝料を獲得するために
被害者が適切な金額の慰謝料を獲得するために、注意するべきポイントをまとめてみました。確認していきましょう。
5-1.事故にあったらすぐに病院へ行く
交通事故の被害に遭ったら、すぐに病院へ行くことが重要です。
自覚している症状がない場合でも、後々、痛みや痺れなどの症状が発生するケースもあるので、病院で検査を受けておきましょう。
事故から治療開始までの日数が空いている場合、事故とケガとの因果関係が争いになるケースがあります。
保険会社が、事故とケガは無関係だと判断し、入通院慰謝料の支払いを拒否する可能性もあるので、すぐに病院へ行きましょう。
5-2.通院の頻度・期間は医師の指示に従う
医師の指示に従い、適切な頻度と期間で通院することが大切です。
自己判断で長期間にわたって通院しなかったり、途中でやめたりすると、保険会社が慰謝料の対象となる日数を少なくして慰謝料を計算することがあります。
仕事や家事で忙しくても、完治もしくは、症状固定(治療を続けても症状の改善が見込めない状態)と医師が判断するまでは、医師の指示に従って通院を継続することが重要です。
5-3.整骨院に通う場合は医師の許可を得る
整骨院に通った期間も、入通院慰謝料の対象になることがあります。
ただし、慰謝料を請求するには、整骨院での施術が必要だったと認められることが重要なので、整骨院に通う際は次の点に注意しましょう。
- 事故後はまず整形外科へ通院する
- 医師の同意・許可を得てから整骨院に通う
- 整骨院の通院が始まっても整形外科の通院をやめない
また、開業に国家資格を必要としない整体院やカイロプラクティックなどに通った場合、慰謝料の対象にならない可能性がありますので、注意してください 。
これは、国家資格(=法律による裏付け)にもとづかない医療類似行為では、治療の必要性や相当性が認められ難いからです。
5-4.保険会社から「症状固定です」と言われても応じない
交通事故によるケガの治療途中で、加害者側の保険会社から「そろそろ症状固定です」などと言われることがあります。
たとえば、むち打ちの治療を受けている場合、治療開始から3か月程度で症状固定を打診されるケースが多いです。
症状固定とは、ケガの治療を続けても症状の改善が見込めない状態のことです。
症状固定になると、保険会社が治療費の支払いを打ち切るだけでなく、入通院慰謝料の対象となる治療期間もストップするため、慰謝料の金額が少なくなってしまいます。
症状固定は本来、医師が判断するものです。
保険会社から症状固定を打診されても、まだ痛みが残っているなどの理由で治療を続けたい場合は、医師に相談するようにしましょう。
しかし、治療を続ける必要があると医師が判断し、その判断を保険会社に伝えても、受け入れてもらえないケースが少なくありません。
このような場合、交通事故に詳しい弁護士に相談し、保険会社との症状固定時期に関する交渉を依頼することをおすすめします。
5-5.物損事故になっていれば必ず人身事故に切り換える
交通事故でケガをしたのに、目立った外傷がないため警察が物損事故として扱ったり、加害者から「物損事故として処理したい」と頼まれたりするケースがあります。
特に、むち打ちなどは、事故から数日後に痛みや痺れといった症状が出る場合があり、事故直後は症状がなかったため物損事故として扱われてしまうこともあります。
実際はケガをしたのに物損事故として扱われると、交通事故が原因で負ったケガではないとして、保険会社から慰謝料の支払いを拒否されるケースが大半です。
もし、慰謝料を受け取れたとしても、実際の被害に対して少額の慰謝料しか認められない可能性もあります。
適切な慰謝料を受け取るためにも、症状が出たらすぐに病院で診断書を作成してもらい、警察に提出するなど、人身事故に切り替える手続きを進めてください。ただし、手続きを進めても切り替えができない可能性もあるので、外傷や症状がなくても事故直後はすぐに受診することが重要です。
6.入通院慰謝料は弁護士に相談を
入通院慰謝料などの損害賠償金は、示談交渉が始まった後、保険会社から金額が提示されることが一般的です。
提示された金額に納得できれば交渉が成立となり、支払いを受けることができます。
ただし、すでに説明した通り、保険会社は任意保険基準により計算した金額を提示するので、弁護士基準による金額まで増額できる余地があります。
この場合、保険会社との増額交渉が必要になりますが、交通事故と交渉の知識や経験が豊富な保険会社を相手に、増額を認めさせるのは至難の業です。
また、弁護士などの専門家が相手でなければ、そもそも交渉に応じようとすらしないケースも多々あります。
そのため、交通事故に詳しい弁護士に相談し、増額交渉を依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、賠償金額を弁護士基準まで引き上げるべき理由について、必要な証拠を揃えたうえで、法的な視点から主張するため、入通院慰謝料などの賠償金の増額が期待できます。
また、弁護士に依頼するメリットはこれだけではありません。
たとえば、事故直後に依頼すれば、最終的に適切な金額の慰謝料などが認められるよう、通院や治療、検査の受け方についてアドバイスをしてくれます。
後遺症が残った場合は、後遺障害の等級認定を受けることで、入通院慰謝料などに加え、後遺障害の慰謝料や逸失利益を請求することができます。
これらの金額は、後遺障害の等級によって大幅に異なるため、症状に対して適切な等級に認定されるよう、診断書の作成など、申請手続きの段階から支援してくれます。
このように、事故直後から示談の成立まで、弁護士は全般にわたって様々なサポートを行います。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、交通事故に関する弁護士へのご相談を無料としておりますので、まずはお気軽にご連絡ください。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。