症状固定 [しょうじょうこてい]
- 意味
- 医学的に承認された治療方法を継続してもなお、その治療効果が期待できず、症状の改善が見込めない状態のことです。症状固定後に残存する症状(後遺症)については、後遺障害の等級認定申請を行うことにより、損害賠償の対象となります。
- 解説
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0.交通事故のケガが後遺症になることもある
交通事故によるケガが治癒しなかった場合、治療を継続してもそれ以上の治療の効果が望めない状態に至ることがあります。
たとえば、むち打ち(頸椎捻挫)の場合、病院や整骨院で治療・施術などを受けると、症状が一時的に良くなるけれども、時間が経つと、痛みやしびれなどの症状がまた元に戻ってしまい、一進一退を繰り返してしまうことがあります。
このような状態を症状固定と呼びます。
そして、症状固定に至った日付のことを、症状固定日と呼びます。1.症状固定の重要性
交通事故における損害賠償請求では、この症状固定という判断が非常に重要な意味を持っています。
通常、加害者側の任意保険会社は、ケガが治癒するか、または、症状固定までは、治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料などを支払います。
そして、症状固定後に残る後遺症については、別途、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などの問題として損害賠償の対象にするのです。そのため、症状固定後は、治療費や休業損害などは請求できなくなりますし、逆に、後遺障害の慰謝料や逸失利益を請求するためには、症状固定が必要になります。
症状固定により治療費や通院交通費の支払いが終わるのは、治療を継続しても治療の効果が望めないためです。
入通院慰謝料の支払いが終わるのは、この慰謝料が入院や通院の日数を基準にしているからです。
また、休業損害の支払いが終わるのは、治療中のため働くことができないという前提が終わるからです。つまり、症状固定日は、ケガに対する損害賠償(傷害部分)と後遺障害に対する損害賠償(後遺障害部分)の線引きをする基準日なのです。
このような理由から、被害者にとっては、いつ症状固定となるかが重要となります。
その他にも、症状固定は(後遺症が残らなければ)、少なくとも傷害部分の損害賠償については、具体的な金額を計算することが可能となります。
そのため、加害者やその保険会社との示談交渉のスタートラインにもなります。さらに、逸失利益を計算する際には、症状固定日から就労可能年数を求めることになります。
このように、症状固定は後遺障害が発生する基準時になりますので、後遺障害部分に関する損害賠償請求につき、消滅時効の起算点にもなります。
整理 交通事故の損害賠償請求権と消滅時効 時効の起算点 時効期間(※) 傷害部分 交通事故の翌日から 5年 後遺障害部分 症状固定日の翌日から 5年 物損
(物的損害)交通事故の翌日から 3年 - ※ひき逃げや当て逃げなど加害者が不明の交通事故を除く。
- ※2020年4月1日以降に発生した交通事故が対象となる。
2.症状固定までの期間
症状固定までの期間は、傷病の重症度や治療の経過、手術の有無など個別具体的な事情によって異なりますので、必ずしもこのくらいの期間というものはありません。
代表的なケガについて一般的な目安を述べるならば、頸椎捻挫(むち打ち)の場合は3~6か月程度で症状固定とされることが多いです。骨折の場合は、6か月~1年以上の時間を要することもあります。
また、頭部や背中に衝撃を受けてしまい、高次脳機能障害や脊髄損傷のような症状がある場合には、症状固定まで1年以上かかることが通常です。
3.症状固定は誰が判断するのか
交通事故によるケガの治療途中で、相手の保険会社が「そろそろ症状固定としてください」と言ってくることがあります。
たとえば、むち打ちの場合、治療開始から3か月程度で症状固定の打診があることが多いです。これは、保険会社が治療費などの支払いを打ち切るために行います。治療費や休業損害、入通院慰謝料などは症状固定日までしか支払いの対象になりませんので、保険会社としては、少しでも症状固定時期を早めることができれば、それだけ支払う保険金を抑えることができます。
しかし、症状固定は保険会社が決めてよいことではありません。
症状固定は、治療を継続しても、症状の改善が見込めないという状態を判断することですから、そのタイミングは、あくまでも患者の訴えや症状、治療経過などを踏まえ、被害者を直接見ている医師(主治医)が判断することになります。もし3か月程度で症状固定となった場合、むち打ちの後遺症について後遺障害の等級認定申請を行っても、認定されることが非常に難しくなります。
4.症状固定を打診されたら
被害者が治療の効果を感じており、医師が治療の必要性があると判断すれば、保険会社の言う通りに症状固定にする必要はありません。主治医によく相談してください。
主治医が治療継続の必要性があると判断した場合は、それを保険会社に伝えることで、治療費の支払いが継続されることがあります。
しかし、保険会社が治療費の支払いを打ち切った場合は、自費で治療費を立て替えながら通院を継続し、示談交渉の際に請求することになります。
この点、事故の状況からみて軽傷であるにもかかわらず、通院期間が長過ぎるなどとして、保険会社が症状固定の時期を強く争ってきた場合は、最終的に裁判所の判断により決着しなければならないこともあり得ます。
5.症状固定後の対応
症状固定後から傷害部分に対する示談交渉が始まりますが、次のような点に注してください。
5-1.後遺障害の等級認定申請を行う
症状固定後に残ってしまった後遺症については、後遺障害の等級認定を申請することができます。手続きにより後遺障害であると認定されれば、後遺障害の慰謝料や逸失利益を請求することができます。
そのため、主治医に「後遺障害診断書」の作成を依頼し、申請手続きに必要な書類などの準備を進めていきます。
5-2.治療を続けることはできる
医師から症状固定の診断を受けると、任意保険会社による治療費の支払いは打ち切られます。そのため、それ以後に通院して治療を継続したとしても、治療費を負担してもらうことはできません。
しかし、症状固定日は様々な基準日としての役割がありますが、それ以降の治療を禁止するものではありません。
自分が治療の必要性を感じていれば、健康保険などを利用しながら、自己負担で治療を継続することができます。6.症状固定は弁護士に相談を
以上のように、交通事故における損害賠償は症状固定の時期により大きく左右されますので、慎重な判断が必要です。
症状固定のタイミングを誤ると、治療費のみならず、休業損害や入通院慰謝料を十分に得られないなど、被害者にとって不本意な示談内容になる可能性があります。保険会社から症状固定を打診されたら、交通事故の経験豊富な弁護士に相談してください。
示談交渉や後遺障害の等級認定手続きを見据えて、症状固定に関するアドバイスをすることができますし、適正な症状固定時期とするために保険会社と強く交渉します。
- 関連する用語
- 治療費[ちりょうひ] 休業損害[きゅうぎょうそんがい]
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