経済的全損 [けいざいてきぜんそん]
- 意味
- 交通事故で破損した車両について、修理は可能でも、修理費用が事故当時の車両の時価額(市場価値)を上回る状態を指します。事故車両が経済的全損となった場合の修理費用は、時価額と買い替え諸費用を上限として加害者側に請求することができます。
- 解説
- 目次[]
0.経済的全損という考え方
交通事故に遭った車両の破損が深刻で、物理的に修理が不可能な状態、または、修理費用が事故当時の車両の時価額と買い替え諸費用を上回る状態になることを「全損(ぜんそん)」と呼びます。これは法律用語というよりも、保険実務や裁判実務においてよく使われます。
そして、全損は「経済的全損」と「物理的全損」に分けられます。これらの違いは、物理的に修理が可能かどうかです。
- 物理的全損
- 破損が深刻で、物理的に修理が不可能な状態
- 経済的全損
- 修理は可能だが、修理費用が車両の時価額と買い替え諸費用の合計を上回る状態
たとえば、自動車のフレームが歪んでおり、エンジンが破壊されているような場合は、自動車の構造や安全上の理由により修理自体が不可能となります。
また、修理は可能だが修理費の見積もりが150万円だったとします。この場合に車両の時価額や買い替え諸費用の合計が100万円であれば、自動車を買い替えた方が経済的な合理性があると判断されます。
いずれのケースにおいても、加害者側に請求できる修理費用の上限は、車両の時価額と買い替え諸費用の合計までとして扱われます(最判昭和49年4月15日)。これを整理すると、以下のような図式になります。
- 修理費用 > 時価額+買い替え諸費用
経済的全損として扱い、時価額と買い替え諸費用の合計額相当を保険金として支払う - 修理費用 ≦ 時価額+買い替え諸費用
修理費用を保険金として支払う
1.修理費用の全額請求が認められない理由
なぜ、修理費用の全額を請求することができないのでしょうか。そもそも、交通事故における損害賠償は民法709条の不法行為にもとづくものであり、被害者受けた損害を加害者に補てんさせることを趣旨としています。
そのため、自動車の時価額+買い替え諸費用を上回る場合にまで、修理費用の補てんを認めると、社会通念や経済的合理性に反して加害者に不当な負担を強いることなり、損害の公平な分担という法の趣旨から外れることになるからです。
2.車両の時価額と買い替え諸費用
車両の時価額と買い替え諸費用によって、請求できる修理費用の上限が決まるため非常に重要な要素です。それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
2-1.車両の時価額
車両の時価額は、事故時点で「同一の車種・年式・型式、同程度の使用状態・走行距離の中古車」を市場で購入する際の価格が基準となります。
保険会社は、「レッドブック」(正式名称:オートガイド自動車価格月報)や「イエローブック」(正式名称:中古車価格ガイドブック)などの資料をもとに車両の時価額を算定することが一般的です。しかし、実際の中古車市場の価格とはかけ離れて低い場合があります。
保険会社から提示された時価額に納得できなければ、中古車販売サイトなどで同条件の車両の価格を調査し、増額を求めましょう。場合によっては、複数の業者により時価額の査定を取得したり、JAAI(一般財団法人 日本自動車査定協会)などの第三者査定機関を利用する選択肢もあります。
2-2.買い替え諸費用
買い替え諸費用とは、新たに自動車を購入する際に必要となる費用のことです。たとえば、次のような費用が挙げられます。
- 自動車登録費用
- 車庫証明費用
- 廃車手数料
- 納車手数料
- 自動車取得税
- 自動車重量税
- ナンバープレートの取得費用
これらは事故がなければ発生しなかった費用であるため、損害賠償の対象となります。
3.加害者の対物超過修理費用特約を確認しましょう
加害者側の保険に対物超過修理費用特約が付帯されていて、かつ、実際に修理を行った場合、修理費用が時価額を超えた分について、一定の限度額(一般的には50万円)まで補償されることがあります。
ただし、この特約による補償を受けるには、注意点があります。まず、加害者側の保険に特約が付帯されていることに加え、加害者自身が特約の利用を希望して保険会社に請求しなければなりません。
つまり、被害者が特約による補償を希望しても、加害者側に特約を利用する意思がなければ、補償を受けられないのです。また、加害者が特約の利用に応じても、被害者側にも過失があると、過失の程度に応じて補償額が減額される点にも注意しましょう。
4.損害賠償の請求は弁護士にお任せください
保険会社から提示された時価額に納得がいかない場合は、実際の市場価格を調査し、適切な損害賠償を受けるための交渉が必要です。
特に、時価額の評価や修理の相当性の判断においては、客観的な証拠にもとづいて主張を行うことが重要となります。また、加害者側の保険に対物超過修理費用特約が付帯されていれば、利用するよう求めることになります。
これらの対応には、自動車保険に関する専門的な知識や保険会社との交渉力が求められるため、交通事故案件に精通した弁護士にご相談いただくことで、より有利かつスムーズに進めることができます。
弊事務所には、交通事故の実績が豊富で、交渉に自信がある弁護士が揃っております。弁護士に相談することが初めてという方も、どうか安心して一度お問い合わせください。
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