運行供用者責任 [うんこうきょうようしゃせきにん]
- 意味
交通事故の加害者本人だけでなく、第三者である運行供用者にも、被害者に対する損害賠償責任を認めることです。
- 解説
0.運行供用者責任が発生するようなケース
通常の交通事故であれば、被害者に対する損害賠償責任は、加害者本人に発生します。
しかし、たとえば、他人から借りた自動車で交通事故を起こした場合、直接的な加害者である運転者以外の第三者にも、被害者に対する損害賠償責任が発生する場合があります。
このような、第三者を「運行供用者」と呼び、その責任を「運行供用者責任」と呼びます。たとえば、以下のような交通事故のケースでは、運行供用者責任が発生する可能性があります。
- 他人から借りた自動車で事故を起こした場合
- 無断で他人の自動車を運転して事故を起こした場合
- 営業車(バス、タクシーなど)が事故を起こした場合
- 代車で事故を起こした場合
- 盗難車で事故を起こした場合(管理責任を果たしていない場合)
そして、運行供用者責任を負う主体は、交通事故が発生したケースによって異なります。
たとえば、加害者が他人から借りた自動車で交通事故を起こした場合、その自動車の所有者に、営業車の場合は、その営業車を所有している法人(会社)に、代車のときには、その代車の所有者である修理工場に、それぞれ運行供用者責任が発生する可能性があります。
また、たとえば、妻が夫の車を無断で運転して交通事故を起こした場合は、いつでも運転できる状態であった(キーを誰でも取れるところに置いていたなど)といった事情があると、その所有者(夫)に運行供用者責任が発生する場合があります。
同じように、加害者が盗難車で交通事故を起こした場合は、盗難されても仕方がない状態で管理していたといった事情があれば、盗難車の所有者に運行供用者責任が発生することがあります。
1.運行供用者に該当する場合
法律では、運行供用者を「自己のために自動車を運行の用に供する者」と定義しています(自動車損害賠償保障法第3条)。
そして、次の要件を満たした場合、運行供用者に該当します。- 車を使用することについて実質的な支配権を持っている(運行支配)
- その車の運行によって利益を得ている(運行利益)
最判昭和43.9.24判決
①の運行支配とは、人に車を運転させたり、貸したりなど、車の運行を実質的にコントロールできる地位・権限を有していると判断される場合に認められます。
また、このような実質的な支配のみならず、事実上の支配や間接的な支配などの場合でも認められる可能性があり、個別具体的な交通事故のケースにより判断が異なります。
②の運行利益とは、車を運行させることによって、金銭的な利益を得ている場合や、社会通念上何らかの利益を得ていると判断される場合も含まれます。
そして、運行供用者責任が認められた場合、損害賠償金の総額が100万円と仮定すると、加害者本人と運行供用者にそれぞれ50万円ずつ請求したり、被害総額のすべてを運行供用者に請求することも可能です。
ただし、運行供用者責任は、人身事故の被害に関する費目のみ発生します。物損事故には、運行供用者責任が発生しない点に注意が必要です。
2.運行供用者責任が認められる理由
運行供用者は、交通事故を起こした直接的な加害者ではなく、あくまで、交通事故の第三者にすぎません。
それでも、被害者に対する賠償責任が発生する理由は、以下の法的な考え方にもとづくからです。- ・危険負担
- 自動車という事故の原因になりうる危険物の運行を支配・管理できる立場にある者は、その運行によって生じた責任を負うべきであるとする考え方。
- ・報償責任
- 自動車を運行することで何らかの利益を得ている者は、その運行によって生じた損害についても責任を負うべきとする考え方。
このような理由から、直接的な加害者ではない運行供用者にも、損害賠償責任が発生すると考えられているのです。
3.運行供用者責任が否定される場合
運行供用者責任は、次の要件を証明した場合には、認められません(自動車損害賠償保障法第3条後段)。
- 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
- 被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと
- 自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと
たとえば、2時間後に返却するとの約束で友達に自動車を貸したが、そのまま返却されず、その1か月後に交通事故を起こされたケースでは、貸主の運行供用者性が否定され、運行供用者責任は認められませんでした(最高裁判所判決平成9年11月27日)。
また、タクシー会社の構内駐車場(関係者以外立ち入り禁止)に、キーを差し込んだまま、ドアロックをせずに駐車していたタクシーが盗まれて交通事故が発生したケースにおいても、タクシー会社の運行供用者性が否定され、運行供用者責任は認められませんでした(最高裁判所判決昭和48年12月20日)。
ただし、この要件を証明することは極めて困難な場合が多いです。そのため、運行供用者責任を免れる可能性は低いと言えるでしょう。
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