訴訟・ADR
交通事故紛争処理センターに相談するメリット・デメリットを教えてください。
訴訟より短期間の解決を目指せる、無料で利用できるといったメリットがあります。ただし、利用の手続きに手間がかかる、必ずしも被害者の味方ではないといったデメリットに注意が必要です。
0.交通事故紛争処理センターとは
交通事故の被害者は、加害者やその保険会社に対して損害賠償金を請求するために示談交渉を行います。
しかし、加害者側から提示された賠償金額に不満があるのに増額に応じてもらえないなどの理由で、交渉がまとまらないケースも少なくありません。
交渉がまとまらない場合、民事調停(交通調停)や訴訟といった裁判上の手続きにより、解決を目指すことができます。
また、裁判上の手続きだけでなく、交通事故紛争処理センターを利用することも可能です。
交通事故紛争処理センターは、被害者と加害者側の保険会社との中立的な立場から紛争の解決をサポートする機関で、裁判外紛争手続(ADR)の1つです。
東京にある本部を含め、全国11か所に所在しています。
センターの利用には、費用がかからない、訴訟などより短期間での解決が期待できるといったメリットがあります。
一方で、利用の手続きに手間がかかる、必ずしも被害者の味方ではないといったデメリットに注意が必要です。
1.交通事故紛争処理センターで利用できる手続き
交通事故紛争処理センターでは、次の手続きを無料で利用することができます。
- 法律相談
- 和解あっ旋
- 審査手続
1-1.法律相談
交通事故紛争処理センターの相談担当弁護士が相談に応じ、問題点の整理や助言をしてくれます。
センターの利用は、基本的に法律相談だけで終わるのではなく、次の和解あっ旋に進むことが原則です。
相談内容によっては、裁判上の手続きを案内したり、弁護士会などほかの相談機関を紹介したりして、相談のみで終了するケースもあります。
1-2.和解あっ旋
被害者と加害者側の保険会社がそれぞれ主張する内容をもとに、相談担当弁護士が中立公正な立場から和解に向けた解決策(和解案)を提案します。
被害者と保険会社の双方が提案内容に合意すれば和解成立となります。
その後は相談担当弁護士の立会いのもとで示談書や免責証書を作成し、手続きが終了します。
被害者が和解あっ旋を取り下げた場合や、保険会社が訴訟による解決を要請してセンターが要請を承認した場合も、和解あっ旋が終了します。
相談担当弁護士が和解成立の見込みがないと判断すると、和解あっ旋が不調になったことが被害者と保険会社に通知されます。
被害者か保険会社が申立てをすると、次の審査手続に進みます。なお、保険会社が申立てをする場合は、被害者の同意が必要です。
1-3.審査手続
法学者や元裁判官、弁護士の3名による審査会が、被害者と保険会社から争点の説明や主張を聞き、紛争解決に向けた解決策を示して裁定を行います。
保険会社は裁定の内容を尊重することになっているので、被害者が同意すれば示談が成立します。
示談の成立後は、相談担当弁護士が示談書や免責証書を作成し、その内容にもとづき保険会社が賠償金の支払いなどを進めます。
被害者が同意しなければセンターでの手続きが終了し、訴訟などの手続きに移行します。
2.交通事故紛争処理センターを利用するメリット
交通事故紛争処理センターの利用には、主に次のようなメリットがあります。
2-1.裁判上の手続きに比べ費用と時間がかからない
調停や訴訟といった裁判上の手続きは費用がかかりますが、センターの手続きは無料で利用できます。
また、訴訟を起こした場合、解決までに1年程度かかるケースが大半です。
交通事故紛争処理センターを利用すると、2~3か月で終了することも多く、裁判上の手続きよりも短期間での解決を目指せます。
2-2.保険会社との知識や経験の差を埋められる
保険会社は交通事故や示談交渉の知識と経験が豊富なので、一般の方が対等に交渉するのは非常に困難です。
もし、保険会社から不当な内容を主張されたとしても、反論するのが難しい可能性があります。
センターの相談担当弁護士や審査会は、公平で中立的な立場から解決案を提示してくれます。
そのため、保険会社が不当な主張をした場合も、退けてもらえることが期待できます。
2-3.被害者は裁定の内容に従う必要がない
訴訟の場合、裁判官が下した判決の内容には、被害者も従わなければなりません。
一方、センターの審査手続では、保険会社は審査会の裁定の内容を尊重しますが、被害者は内容に不服があれば従う必要はありません。
3.交通事故紛争処理センターのデメリット
交通事故紛争処理センターの利用にはさまざまなメリットがありますが、デメリットも少なくありません。
3-1.利用の手続きに手間がかかる
交通事故紛争処理センターを利用するには、次のような数多くの書類を用意しなければなりません。
- 交通事故証明書
- 事故発生状況証明書
- 賠償金提示明細書
- 治療費の領収書
- 後遺障害診断書(等級認定を受けた場合)
また、センターを利用するには予約しなければなりませんが、予約をするのに時間がかかる場合があります。
手続きが始まればセンターまで出向く必要があるため、センターが遠方にある人やケガの症状で移動が難しい人にとっては、負担が大きいでしょう。
3-2.必ずしも被害者の味方ではない
センターは、あくまでも公平で中立的な立場から争いの解決を目指す機関であり、必ずしも被害者の味方ではありません。
そのため、被害者に有利な解決策を示してくれるとは限らないのです。
この点、法律事務所の弁護士に保険会社との示談交渉を依頼すれば、被害者の味方として交渉を進めてくれるので、有利な解決が期待できます。
3-3.ケースによっては利用できない
すべての交通事故に対してセンターを利用できるわけではありません。
次のようなケースは手続きの対象外となるため、調停や訴訟による解決を目指すことになります。
- 自転車同士、自転車と歩行者など、相手が自動車ではない
- 後遺障害の等級認定について争っている
- 相手の保険会社がわからない
4.示談交渉の悩みはまず弁護士にご相談を
保険会社との示談交渉が難航した場合は、まず交通事故に詳しい法律事務所の弁護士に相談し、交渉を依頼することをおすすめします。
弁護士は依頼者の味方として、少しでも有利な解決となるよう保険会社と交渉してくれるので、損害賠償金を増額できる可能性が高まります。
もちろん、依頼できるのは示談交渉だけではありません。治療費打ち切りの対応や保険会社とのやりとり、損害賠償金の受取りまでに必要となる煩雑な手続きを任せられます。
交通事故によるケガの治療などで辛いなか、これらを自分で対応するのはとても大変なので、弁護士に任せられるのは大きなメリットでしょう。
弁護士費用の負担が心配で、弁護士に依頼することをためらう方もいるかもしれません。
もし、加入中の保険に弁護士費用特約を付けていれば、弁護士費用が保険から支払われるため、費用負担が不要になるケースが大半です。
家族が加入している特約や、自動車保険以外の保険に付いている特約を利用できる場合もあるので、弁護士への相談前に保険の内容を確認しましょう。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。