示談
示談交渉は、いつごろ始まるものなのですか?
損害が確定した後から始めることが一般的です。ただし、事故やケガの状況により示談交渉を開始するタイミングは異なります。
0.示談交渉のタイミングに決まりはない
交通事故の被害者は、加害者やその保険会社に損害賠償を請求することができます。そして、損害賠償の金額をめぐり示談交渉が必要になります。
この示談交渉を始めるタイミングについて、法的な決まりはありません。
しかし、損害額が確定しなければ交渉の対象自体が定まらないことになりますので、損害額が確定してから始めることが一般的です。
1.示談交渉を始めるタイミング
事故の内容や被害の程度によって損害の確定時期が異なるため、示談交渉を始めるタイミングも異なります。
以下は、それぞれの交通事故における一般的な目安になります。
人身事故 | ケガ (後遺症なし) | ケガが完治した後 |
---|---|---|
ケガ (後遺症あり) | 後遺障害の等級認定が確定した後 | |
死亡事故 | 被害者の葬儀後や四十九日の法要後 | |
物損事故 | 修理費などの見積もりが出た後 |
2.後遺症がない人身事故の場合
後遺症がない人身事故の場合、示談交渉を始めるタイミングは、ケガの完治後です。
人身事故では、ケガの治療費や通院交通費、仕事を休んだ場合の休業損害、傷害慰謝料(入通院慰謝料)などを請求することができます。
これらは、ケガが完治して治療が終了することで請求金額が確定するため、示談交渉はケガの完治後に開始します。
2-1.適切な損害賠償を受けるには適切な通院が重要
ケガに関する損害賠償金額の算定には、治療期間や入院・通院の日数などが大きく影響します。
忙しいからといって通院をおろそかにしてしまうと、被害者が受けた損害は小さいと保険会社が判断し、損害賠償金が減額される可能性があります。
医師の指示に従い、きちんと治療を受けることを心がけましょう。
3.後遺症が残った人身事故の場合
治療後も何らかの後遺症が残った場合は、後遺障害の等級認定が確定した後に示談交渉を始めます。
後遺障害の等級が認定されると、1級から14級までの等級に応じた後遺障害の慰謝料と逸失利益などの損害賠償を別途請求できます。
そのため、後遺症が残ってしまい、後遺障害の等級認定の申請手続きを行う場合は、その結果が確定してから示談交渉を開始します。
3-1.治療が長引いても慌てて示談しないように注意
後遺症が残るようなケガを負うと治療期間は長引くものですが、医師が「これ以上治療しても症状が改善しない」と判断する(症状固定)までは示談交渉を始めないことが重要です。
もし、早く賠償金を受け取りたいと考え、症状固定の時期を早めて示談を成立させてしまうと、後遺障害等級が認定されず、後遺障害の慰謝料や逸失利益の請求が認められないおそれがあります。
また、症状固定後に後遺障害の等級認定を申請し、等級の確定後に賠償金を計算することになるので、症状によっては示談を開始できるまでに時間がかかる場合があります。
この点、後遺障害以外の傷害部分(ケガの部分)について、先行して示談交渉を進め、賠償金を受け取ることができる場合もあります。
しかし、保険会社が示談交渉に応じてくれなかったり、応じたとしても低い金額を提示されたりする可能性もあります。
4.死亡事故の場合
被害者が死亡した場合、亡くなったことに対する慰謝料(死亡慰謝料)や、亡くなったことで得られなくなった利益(逸失利益)のほか、葬儀費用などを請求することができます。
そのため、死亡事故の場合は、葬儀が終わってから、被害者の相続人にあたる遺族が示談交渉を始めることになります。
ただし、葬儀が終わってすぐは遺族の感情の整理がついていないものですので、保険会社も四十九日の法要が終わり、遺族の気持ちが落ち着くまでは示談交渉を開始しないことが一般的です。
5.物損事故の場合
物損事故では、壊れた物の修理費用や買替え費用、自動車が壊れたために代車やレッカー車を使用した場合の費用、登録手続き費用などを請求できます。
修理費用の見積もりが出るなど、それぞれの費用が確定すれば、示談交渉を始められます。
6.人身事故で物損部分を先に交渉するのはOK
一般的に、被害者と加害者の間で示談が成立した場合、示談成立後に新たな損害がわかったとしても、その損害について追加で賠償請求しても認められないのが大原則です。
しかし、人身事故で物損も発生しているケースでは、物損事故の損害部分について、先行して示談交渉して、示談を成立させることができます。
これは、物損部分は人身事故に対する損害(人損部分)と比較すると、早期に賠償額が確定するケースが多いからです。
そのため、人損部分の賠償金額が確定するまで待っていると、賠償金を受け取れるまでに時間がかかることもあるので、物損部分を先に示談交渉してもよいでしょう。
実務上でも、物損事故の損害と人身事故の損害は、別々に示談交渉が行われますし、保険会社でも、担当者が別々に存在することが通例となっています。
7.示談交渉は弁護士にご相談を
示談交渉においては、まず、加害者側の保険会社が慰謝料などの金額を算出し、被害者に示談金額として提示することが一般的です。
そして、提示される金額は、保険会社が自社の定める支払基準により独自に算出したものであるため、法的に認められる金額よりも低いケースが大半です。
この点、金額に納得できないとして増額を求めたとしても、支払額を少しでも抑えたい保険会社は簡単には応じてくれません。
また、保険会社は交通事故と保険金の専門家なので、一般の方が対等な立場で話し合うのは非常に困難です。
そのため、交通事故に詳しい弁護士に相談し、提示された示談金額が適正なのかチェックしてもらい、示談金の増額交渉を依頼することをおすすめします。
また、保険会社と主張が対立する点が多い場合は、示談交渉が長引いてしまうケースがあります。
弁護士であれば、法的に最大限請求可能な金額を求めて増額交渉しますし、依頼者が最も有利になるように手続きを進めます。
保険会社と意見が対立している問題点についても、法的な観点から主張できるので、自身で交渉するよりも早く示談が成立し、その分、賠償金も早く受け取ることが期待できます。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。