具体的な後遺症
脳や頭部の後遺障害はどのような症状がありますか?
主に、遷延性意識障害(植物状態)、びまん性軸索損傷、高次脳機能障害、軽度外傷性脳損傷(MTBI)、外傷性てんかん、外貌醜状などが考えられます。
0.脳や頭の外傷は重大なケガにつながる
交通事故による衝撃により、頭を強く打撲してしまうと、頭蓋骨の骨折など以外にも、脳を損傷してしまうことがあります。
この脳が損傷した状態のことを「脳挫傷」と呼び、脳内に出血を及ぼすこともあります。
具体的には、「硬膜外出血」「硬膜下出血」「くも膜下出血」などが考えられます。
また、脳挫傷の場合、以下に解説するようなさまざまな後遺症を引き起こしてしまうことがあります。
1.遷延性意識障害と後遺障害
遷延性(せんえんせい)意識障害とは、交通事故の影響で、意識がまったく無く、寝たきり状態(いわゆる、植物状態)になってしまうことをいい、交通事故の中で最も重度なケガの1つです。
具体的には、次の項目をすべて満たし、症状が3か月以上続いている場合には、医学的に遷延性意識障害とみなされることになります。
- 自力で移動ができない
- 自力で食事を摂ることができない
- 大小便の失禁がある
- 目は動いていても認識していない
- 簡単な命令に応じてもそれ以上の意思疎通ができない
- 意味のある発語がまったくできない
以上の項目に該当し、遷延性意識障害と診断された場合には、要介護の1級1号、または、2級1号という最も重度な後遺障害等級に認定される可能性があります。
2.びまん性軸索損傷と後遺障害
びまん性軸索損傷とは、脳に衝撃が加わり、神経細胞の一部である軸索の断裂が起こることでさまざまな症状を引き起こすケガのことをいいます。
びまん性軸索損傷で現れる症状には、認知障害と行動障害があります。
また、後遺症が残ってしまった場合に後遺障害等級認定を申請すると、下記の等級に認定される可能性があります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
1級1号 (要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号 (要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
びまん性軸索損傷の特徴として、受傷日からある程度時間が経過すると、脳室の拡大と脳の萎縮が生じることがあります。
そのため、事故直後に受けた画像検査と時間経過後に受けた画像検査の結果を比較することで、びまん性軸索損傷が判明する手がかりとなります。
このような状態を確認してもらうためにも、継続的にCTやMRI検査を受けることを推奨します。
3.高次脳機能障害と後遺障害
高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)とは、交通事故の強い衝撃で脳にダメージを受けてしまった場合に、認知力・行動面・人格面などにさまざまな影響を及ぼし、日常生活に支障をきたす障害のことをいいます。
主な症状としては、次の通りです。
高次脳機能障害の主な症状 | 症状例 |
---|---|
注意障害 | 注意力散漫、簡単な作業でもミスが多い |
記憶障害 | 同じことを何度も話す、物を置いた場所を忘れる |
遂行機能障害 | 自分で考えて行動することができない |
失行症 | 物をうまく使うことができない |
失認症 | 人の顔の見分けがつかない、物の形や色がわからない |
失語症 | 人の顔の見分けがつかない、物の形や色がわからない |
半側身体失認 | 体の麻痺がないようにふるまう |
半側空間無視 | 片側にある物や壁によくぶつかる |
地誌的障害 | 慣れた道や自宅で道に迷う |
交通事故後にこのような症状があった場合には、すぐに病院を受診して、検査を受けるようにしましょう。
また、症状が比較的軽度な場合もありますので、事故後は状態をよく見ておくようにするとよいでしょう。
高次脳機能障害が完治せず、後遺症が残った場合には、以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。
等級 | 認定基準 |
---|---|
1級1号 (要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
2級1号 (要介護) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
高次脳機能障害には、さまざまな症状が発生する可能性があり、症状の客観的な評価が困難な場合も多いため、適切な後遺障害等級の認定を受けられないことがあります。
もし高次脳機能障害の診断を受けたら、「頭部外傷後の意識障害についての所見」を医師に作成してもらい、必要な検査を受けるようにしましょう。
4.軽度外傷性脳損傷(MTBI)と後遺障害
軽度外傷性脳損傷とは、高次脳機能障害のように重度の意識障害がなくても、交通事故により脳に損傷を負った状態のことをいいます。
たとえば、事故前後の記憶がない、手足がしびれるなどの症状がある場合には、MTBIの可能性が考えられます。
交通事故の程度や頭を打ち付けた衝撃によって異なりますが、MTBIでは下記の症状が現れる可能性があります。
MTBIの主な症状 | 症状例 |
---|---|
自律神経障害 | 頭痛、吐き気、目まい、発汗異常など |
感覚障害 | 目のかすみ、視野が狭まる、耳鳴り、味覚や嗅覚の異常など |
てんかん発作 | 発作による意識障害など |
身体障害 | 手足の麻痺、排尿障害、平衡感覚の異常など |
睡眠障害 | 睡眠時間が長くなった、寝付けないなど |
行動変化 | 情緒不安定、固執傾向、過敏症など |
高次脳機能障害 | 記憶力、理解力、集中力の低下など |
MTBIで認定される可能生のある後遺障害等級は、前述した高次脳機能障害と同様です。
後遺障害の等級認定を受けるためにも、必要な画像検査を受けましょう。
画像所見によって脳の出血痕や損傷の程度を示すことができれば有力な証拠となりますので、少しでも疑いがある場合には、医師に相談してMRIなどの検査を受けましょう。
5.外傷性てんかんと後遺障害
外傷性てんかんは、交通事故の影響で脳の中枢神経を損傷してしまった場合に発症する可能性があります。
この場合、次の症状が現れる可能性があります。
- けいれん発作
- 突発性の意識喪失
- 一時的な記憶喪失
この他にも、脳細胞に異常をきたしていることから、さまざまな症状が現れる場合があります。
なお、外傷性てんかんの場合に認定される可能性がある後遺障害等級は以下の通りです。
等級 | 認定基準 | 詳細説明 |
---|---|---|
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | ・1か月に1回以上の発作がある ・発作による転倒を伴う |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | ・数か月に1回以上の発作がある ・転倒を伴う発作以外の発作が1か月に1回以上ある |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | ・数か月に1回以上の発作がある ・服薬により発作をほぼ抑制されている |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | ・発作は現れないが、脳波上にてんかん性棘波が認められるもの |
交通事故に遭った後から発作が現れるようになってしまったら、脳波検査を受けるとよいでしょう。
また、発作が現れてはいないが、少しでも疑われるような場合には、「てんかん性棘波(きょくは)」の有無を確認するために脳波検査を受けましょう。
もし棘波が認められる場合には、後遺障害等級に認定される可能性があるため、この検査も受けるとよいでしょう。
6.外貌醜状と後遺障害
外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)とは、手足以外の人目に触れる部位(頭部・顔面・首など)に、人目につく傷痕が残ってしまった状態のことをいいます。
交通事故で、外貌(頭部、顔面、首など日常的に露出する部分のうち、腕・足以外の部分)に、人目につく傷痕(醜状)が残った場合、次の後遺障害等級に認定される可能性があります。
等級 | 認定基準 | 詳細説明 |
---|---|---|
7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの | ①頭部に残った手の平大以上の瘢痕または頭蓋骨の手の平大以上の欠損 ②顔面部に残った鶏卵大以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没 ③首に残った手の平大以上の瘢痕 |
9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの | ①顔面に残った長さ5cm以上の線状痕 |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの | ①頭部に残った鶏卵大以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損 ②顔面に残った10円硬貨以上の瘢痕または長さ3cm以上の線状痕 ③首に残った鶏卵大以上の瘢痕 |
このように、傷痕の大きさや、傷痕が残った部位によって認定される等級が異なる点に注意が必要です。
なお、上記以外にも、腕(上肢)に傷痕が残った場合は14級4号(上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの)に、足(下肢)に傷痕が残った場合は14級5号(下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの)に認定される可能性がありますので、後遺障害の等級認定を申請するとよいでしょう。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。