自賠責保険とは何か、交通事故での補償内容や仕組みを弁護士が解説

交通事故のよくあるご相談Q&A(FAQ)

自動車保険

Q.uestion

自賠責保険とはどのような保険ですか?

弁護士 大橋史典
弁護士 大橋史典
Answer

すべての自動車、バイク(二輪自動車)、原動機付自転車(原付)に加入が義務付けられている強制保険です。交通事故の被害者への最低限の補償を目的としています。

0.自賠責保険は必ず加入する必要がある

すべての自動車やバイク(二輪自動車)、原動機付自転車(原付)は、法律により自賠責保険の加入が義務付けられています(自動車損害賠償保障法第5条)。

自賠責保険があることで、加害者の資力が乏しかったり、任意保険に未加入だったりしても、交通事故で負傷した被害者は最低限の補償を受けられます。

1.任意保険との違い

自動車などに関する保険としては、自賠責保険のほかに任意保険があります。
2つの保険には主に次のような違いがあります。

自賠責保険
(強制保険)
任意保険
加入義務ありなし
物損事故の補償なしあり
保険金の額法令で決められている各保険会社が決めている

2.自賠責保険に未加入だと罰則を受ける

自賠責保険の加入義務に違反した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(同法86条の3第1項)。
また、行政処分の対象にもなっており、6点の違反点数が付けられるため、ただちに免許停止になります。

3.自賠責保険の補償対象は人身事故のみ

自賠責保険の対象は人身事故のみで、被害者の傷害(ケガ)や後遺障害、死亡による損害を補償してくれます。
そのため、死傷者が発生せず、自動車や所持品などが壊れた物損事故は補償の対象外です。

なお、人身事故でも被害者が信号無視をした場合など、加害者に責任や過失(不注意)がまったくない事故は、補償の対象外です。

4.自賠責保険で補償される金額には上限がある

自賠責保険で補償される金額には、次のような上限が定められています。
なお、後遺障害については、症状の程度に応じた等級によって金額が決められています。

被害者がケガをした120万円
被害者に後遺障害が残った75万円~4,000万円
被害者が死亡した3,000万円

たとえば、被害者がケガをした場合の上限額は120万円ですが、この金額の中には次のような費目が含まれます。

  • 治療費
  • 通院交通費
  • 休業損害
  • 傷害慰謝料(入通院慰謝料)

また、後遺障害が残った場合や死亡した場合は、上限額に慰謝料や逸失利益、葬儀費用(死亡の場合)なども含まれます。
このように、上限額の中には慰謝料も含まれているため、自賠責保険から支払われる慰謝料は、少なくなってしまうことが一般的です。

自賠責保険の限度額を超える損害が発生した場合、超えた分は、加害者が任意保険に加入していれば、保険会社に対して請求します。
加害者が任意保険に未加入であれば、加害者に直接請求することになります。

自賠責保険の補償内容については、次のQ&Aでより詳しく解説しています。ぜひご参照ください。

5.自賠責保険への保険金の請求方法と請求期限

交通事故の被害者が自賠責保険に保険金を請求する方法には、「加害者請求」と「被害者請求」とがあります。
ただし、それぞれの請求方法には期限があり、期限を過ぎると請求する権利が消滅するので注意が必要です。

5-1.加害者請求

加害者が被害者に慰謝料などの賠償金を支払った場合、加害者が加入する自賠責保険に加害者が自ら請求します。
請求期限は賠償金を被害者に支払った翌日から3年です。

5-2.被害者請求

加害者が加入する自賠責保険に対し、被害者が賠償金の支払いを直接請求する方法です。
加害者が賠償金を支払わなくても、加害者の支払いを待つことなく被害者が賠償金を受け取ることができます。
請求期限は次の通りです。

ケガの場合ケガの場合 事故発生の翌日から3年
後遺障害の場合症状固定の翌日から3年
被害者が死亡した場合死亡した翌日から3年

6.治療中でも仮渡金を受け取れる

賠償金の請求は、ケガが治癒したり、症状固定となった後に行うのが原則です。
しかし、治療費の支払いなどは被害者にとって負担が大きいので、被害者請求では「仮渡金」という形式で、次の金額を事前に受け取ることもできます。

ケガの場合ケガの場合 負傷の程度に応じて5万円~40万円
死亡の場合290万円

最終的に支払われる賠償金額が確定すると、仮渡金として支払われた金額が賠償金から差し引かれます。
逆に、仮渡金の金額が賠償金額を上回った場合は、差額分を返金します。

7.加害者が不明・自賠責保険に未加入の場合

ひき逃げされて加害者が分からない、または、自賠責保険に未加入だった場合、自賠責保険に賠償金を請求できません。
このようなケースでは、「政府保障事業」という制度により、政府から保障金を受け取ることができます。

政府保障事業は、本来、加害者が支払うべき賠償金を、自賠責保険の上限額の範囲で政府(国土交通省)が立て替えてくれる制度です。自賠責保険と同様に人身事故を対象としており、物損事故である当て逃げは制度の対象外です。

加害者不明・自賠責保険未加入の場合、政府保障事業を行っている国土交通省へ損賠賠償請求をすることができる。国土交通省は損害のてん補(立替払い)をし、被害者が本来の損害賠償責任者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、損害賠償責任者(加害者)に対して求償(立替えた損害賠償金の請求)を行う。

なお、健康保険や労災保険などから給付を受けていると、給付された金額が保障金から差し引かれます。
また、人身傷害保険から保険金を受け取った場合は、この制度は利用できません

8.賠償金額への不満は弁護士にご相談を

交通事故の慰謝料などの賠償金額の計算には、次の3つの基準が使われます。
そして、どの基準を使うかにより、金額が大きく異なります。

自賠責基準
自賠責保険から損害賠償を受ける場合の計算方法となる基準
任意保険基準
任意保険会社が独自に定めた自社の支払い基準
弁護士基準(裁判所基準)
交通事故に関する過去の裁判で認められてきた賠償金額にもとづいた基準

そもそも、自賠責保険は被害者に対する最低限の補償を目的としているため、3種類の基準の中で最も低額です。

たとえば、交通事故で骨折し、2か月(60日間)にわたり通院(実際の通院回数は20回)したケースで、自賠責基準と最も高額な弁護士基準による慰謝料の金額を比較してみます。

現在の自賠責基準で算出した場合、傷害慰謝料の金額は17万2,000円です。
一方、弁護士基準では52万円となるため、傷害慰謝料に約3倍もの開きがあります。

しかし、弁護士基準は弁護士が保険会社との示談交渉に際して用いるものであり、また、法律の専門知識や経験値が求められるため、一般の方が対応することは非常に困難です。

ぜひ、交通事故に詳しい弁護士に示談交渉を依頼してください。賠償金の増額が期待できるはずです。

弁護士 大橋史典
弁護士 大橋史典
この記事を監修した弁護士

弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)

獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。

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