「腰椎捻挫」とは?交通事故の損害賠償に関する法律用語

やさしい交通事故の用語集

腰椎捻挫 [ようついねんざ]

意味
外部からの強い衝撃が腰椎に加わり、周囲にある筋膜や筋肉、じん帯、椎間板などが損傷することで、痛みやしびれなどを引き起こす症状のことです。
解説

0.事故の衝撃を腰に受けると…

交通事故で後続車から追突されたような場合、不意の衝突により防御の姿勢を取ることができず、外部からの強い衝撃が腰椎に加わることがあります。

この衝撃により、骨の周囲にある筋膜や筋肉、じん帯、椎間板などが損傷し、腰部の痛み(腰痛)、下肢の痛みやしびれ(坐骨神経痛)を発症することがあります。
これが腰椎捻挫です。医師の診断書では「腰部挫傷」「外傷性腰部症候群」とも記載されることがあります。

1.腰椎捻挫の治療とその期間

交通事故による受傷直後は、腰に強い痛みが生じて、起き上がったり歩いたりすることが困難な場合もあるかもしれません。

事故直後は患部を安静にしつつ、コルセット(腰部固定帯)により腰を保護することがあります。
また、消炎鎮痛効果のある湿布や塗り薬、痛み止めの内服薬などが処方されることもあります。
一般的に、急性期の強い痛みは1~2週間ほどで軽減しますが、慢性的な痛みやしびれは続くことが多いです。

「安静にしていれば治る」と治療せずに放置していた場合、後遺症として残ってしまう危険性もあるため、早めに整形外科で治療を開始し、適切な頻度での通院やリハビリを継続することが大切です。
また、医師の指示があれば、整骨院や接骨院での施術を受けることも効果的でしょう。

腰椎捻挫が全治するまでの平均期間は、個人差もありますが概ね2~3か月と言われています。しかし、6か月以上治療しても症状が良くならない場合は、症状固定をして後遺障害の等級認定申請を行うことが検討されます。

2.腰椎捻挫と後遺障害の等級

腰椎捻挫による痛みやしびれなどの後遺症について、後遺障害の等級が認定されると、後遺障害の慰謝料や逸失利益といった損害賠償を請求することができます。

腰椎捻挫の後遺症により認定され得る主な等級は、14級9号または12級13号となります。

等級任意保険基準慰謝料(弁護士基準)
14級9号局部に神経症状を残すもの
(= 障害の存在が医学的に説明可能なもの)
110万円
12級13号局物に頑固な神経症状を残すもの
(= 障害の存在が医学的に証明できるもの)
290万円

局部とは、腰部のことを指します。神経症状とは、腰椎捻挫による痛みやしびれなどの神経障害などのことです。

3.腰椎捻挫の後遺障害の等級認定のポイント

後遺障害の等級認定申請は、「事前認定」または「被害者請求」のどちらかの手続きにより、自賠責保険会社に対して行います。
そして、このときに認定のポイントとなるのが次の5点です。

3-1.CTやMRI画像などの他覚的所見があること

12級13号の認定基準である「医学的に証明できる」とは、CTやMRI画像などの他覚的所見により症状を客観的に証明できることを意味しています。

そのため、CTやMRIなどの画像診断により、たとえば、腰椎の椎間板ヘルニアなどの異常所見が認められれば、外に飛び出した髄核が神経を圧迫していることがわかりますので、神経症状の存在を証明することができます。

特に、腰椎捻挫は、筋肉やじん帯、神経、椎間板(軟骨)など人体の軟部組織に損傷が生じていますので、レントゲンには写らないという問題があります。
後遺障害の等級認定申請を考えるなら、主治医と相談のうえでMRIによる画像検査を行うことが推奨されます。

3-2.各種の神経学的検査を受けていること

痛みやしびれなどの神経症状は、画像検査以外にも神経学的検査により他覚的所見を得ることができます。
腰椎捻挫における代表的な検査方法は次の通りです

SLRテスト(ラセーグテスト)

仰向けに寝て、膝を曲げずに伸ばした状態のまま下肢を持ち上げていき、坐骨神経の神経根を圧迫します。下肢を持ち上げた際に痛みやしびれが生じると陽性と判定されます。
なお、その動きから「下肢伸展拳上テスト」とも呼ばれています。

ラセーグ兆候

仰向けに寝て、股関節と膝関節の両方を90度に屈曲させます。その後、医師が膝を少しずつ伸展させていき、臀部の筋肉の圧迫を軽減していきます。
このときに、疼痛(とうつう)の軽減が得られれば、陽性となります。

ブラガードテスト

SLRテストにより痛みやしびれが出た場合、持ち上げた下肢を少し下げた位置で、足関節を背屈します。このときに、下肢の痛みやしびれを誘発される場合、陽性と判定されます。

FNSテスト

うつ伏せに寝て、膝を90度に屈曲させ、医師が股関節を伸ばすようにして、下肢を持ち上げていきます。
このときに、大腿神経の神経根に異常があれば、太ももの前面に痛みやしびれが生じると陽性と判定されます。

たとえば、SLRテストとラセーグ兆候が陽性であったり、FNSテストが陽性であった場合には、腰椎捻挫、特に腰椎の椎間板ヘルニアが強く疑われます。

これらの検査は坐骨神経や大腿神経の神経根に圧力を加えることで、神経症状の有無を確認することから、神経根症状誘発テストという分類で呼ばれます。

この他にも、医療用のハンマーで膝を叩き、その反応が低下していないかを調べる深部腱反射や、大腿部・下腿部の筋肉に萎縮がないかを調べる筋萎縮検査により、神経障害が起きていないかを検査したりします。

特に、MRIなどの画像所見が乏しい場合、神経学的検査が陽性であることは有力な他覚的所見になります。

3-3.症状に一貫性と連続性があること

受傷直後から症状固定の時期まで、痛みやしびれなどの自覚症状が終始一貫して継続していることが必要です。

交通事故による腰椎捻挫の場合、事故直後には自覚症状があらわれない場合もあるため、受傷後すぐに整形外科などのある病院を受診することが大切です。

3-4.通院を継続的に行ってきたこと

受傷直後から症状固定の時期まで、適切な通院頻度を守りながら、たとえば6ヵ月以上の通院を継続していれば、認定される可能性が高まります。

特に、他覚的所見に乏しく12級13号に当てはまらないような場合には重要です。
というのも、14級9号の認定基準である「症状の存在が医学的に説明可能」であることを示すためには、受傷直後から症状固定の時期まで、自覚症状が終始一貫して継続し、それに対する適切な頻度での治療が継続されてきたことが必要だからです。

3-5.後遺障害診断書に必要十分な記載があること

後遺障害の等級認定申請には、主治医に後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。

後遺障害診断書には、MRIなどの画像検査や神経学的検査にもとづく他覚的所見が記載されていることが必要です。
また、後遺症により日常生活や仕事のうえでどのような障害や不便さが生じているのかも具体的に書いてもらうことが望ましいです。

等級認定の審査は書面のみで行われるため、後遺障害診断書に必要十分な記載があることが重要となります。

4.腰椎捻挫は早めに弁護士に相談を

腰椎捻挫による痛みやしびれなどの後遺症が残っていたとしても、後遺障害の等級認定基準を満たしていなければ、等級が非該当になったり、本来の想定よりも低い等級が認定されたりする可能性があります。

たとえば、腰椎捻挫により12級13号に認定された場合、弁護士基準では慰謝料は290万円となりますが、14級9号の場合は110万円となり、非該当の場合は0円です。

適切な後遺障害の等級認定を受けるためには、事故直後からの通院と並行して、交通事故に詳しい弁護士に早めに相談してください。

弁護士から、後遺障害の等級認定を見据えた通院頻度、医師とのコミュニケーション、後遺障害診断書の作成のポイントなど、さまざまなアドバイスが受けられますし、保険会社への対応や示談交渉を任せることができます。

なお、加入中の保険に弁護士費用特約が付いていれば、原則的に弁護士費用の負担なく、弁護士に依頼することができますので、ご活用ください。

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