「念書」とは?交通事故の示談交渉と手続きに関する法律用語

やさしい交通事故の用語集

念書 [ねんしょ]

意味
何らかの約束ごとを明確にした書面のことです。交通事故の場合は、賠償金の支払い金額や補償内容などを記載した念書の作成を求められることがあります。
解説

0.念書の一般的な性質

念書とは、何らかの取り決めや約束ごとなどを、あらかじめ明確にしておくために作られる書面のことです。

念書には、その内容によりますが、基本的には法的拘束力を有しないことが多いという特徴があります。
あくまでも、一方当事者が他方当事者に対して、約束や確認をするために差し入れるものだからです。

ただし、裁判で交通事故の証拠として提出されることがありますし、念書にもとづき、公正証書を作成することができる場合があります。そのため、内容をよく確認せずに署名することは絶対に止めましょう。

1.念書と示談書の違い

念書と混同されるものに「示談書」がありますが、これらの書類はまったく別物です。

示談書は、正式な示談交渉を経て作られるため、適切な内容で作成され、強い法的拘束力が認められるという大きな違いがあります。

交通事故における示談書と念書の違い
項目示談書念書
署名・
押印の対象者
加害者・被害者加害者
拘束の対象者加害者・被害者加害者
法的拘束力強い弱い
作成のタイミング示談成立後事故直後など
早い段階

2.交通事故で念書を取り交わした場合の加害者のリスク

念書を取り交わした場合、次のようなリスクが考えられます。

2-1.法的に必要な範囲以上の賠償金を請求される

交通事故で請求できる各賠償金は、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準という算定基準から算出され、それぞれの計算式に則って計算されます。

たとえば、被害者の方がむち打ちを負い、病院に3か月(90日)通院し、治療を受けた日数が40日で、自賠責基準で計算した場合を想定してみましょう。
自賠責基準では、「4,300円×実治療日数×2」、または、「4,300円×総治療期間」で計算した算出額の低い方が支払われます。

このケースでは、それぞれ344,000円(4,300×40×2)と387,000円(4,300×90)になり、低い方の344,000円が自賠責保険から支払われることになります。

しかし、「慰謝料100万円を支払う」などと記載がある念書に署名した場合には、加害者は法的に認められる範囲以上の慰謝料を支払うことになりかねませんので、注意してください。

2-2.示談交渉が円滑に進まない

念書に署名してしまうと、示談成立後に保険会社から提示された内容と、念書の内容が異なるため、被害者が納得せず、交渉が長引く可能性があります。

特に、賠償金額が記載されている念書の場合は要注意です。
念書に記載されている金額で請求されることもありますし、差額分を支払わされる場合も考えられます。念書には、可能な限り署名しないようにしましょう。

3.念書を求められた場合の対処方法

念書を求められた場合は、次の方法で対処しましょう。

3-1.きっぱりと断る

念書の署名を求められた場合、賠償問題は自身の加入している保険会社に任せるとして、きっぱりと断るようにしましょう。
署名してしまうと、様々なトラブルが生じる可能性があります。そのため、基本的には署名しないことが鉄則です。

3-2.書かざるを得ない場合には金額を記載しない

念書への署名を断っても、執拗に署名を求められることがあります。
このような署名せざるを得ないようなときには、賠償金の金額は書かないようにし、謝罪文にとどめるようにしましょう。

金額を記載してしまうと、その分の賠償金を請求されたり、保険会社が提示した賠償金との差額分を請求されたりするおそれがあります。
あらぬトラブルを防止するためにも、金額は記載しないようにしましょう。

3-3.強迫や詐欺により念書を書かされたら

社会常識に照らして非常識で法外な内容の念書を書かされた場合、公序良俗に違反して無効になりますし、強迫により念書を書かされた場合は取り消すことができます。

たとえば、修理費が数十万円程度で済むにもかかわらず「2,000万円支払う」と書かされた場合や、「書かないとお前の家族を傷つけるぞ」などと脅された場合などです。

また、いわゆる「当たり屋行為」など、交通事故の被害を意図的に引き起こして賠償金や保険金を請求するような行為は詐欺に該当しますので、そのような念書は取り消すことができます。

4.念書のことで困ったら弁護士に相談

そうはいっても、交通事故の現場で相手から念書を求められた場合、戸惑ったり、焦ったりしてしまうことがあるでしょう。

また、すでに書いてしまった念書の効力に不安を覚えてしまうかもしれません。
そのような困ったことがあれば、弁護士まで一度ご相談ください。

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