逸失利益
後遺障害による労働能力喪失率とは何ですか?
交通事故の被害により後遺障害が残ったことで、労働能力がどの程度低下したかを示す数値です。後遺障害の等級によって数値が決められており、逸失利益の金額を計算する際に使用します。
0.労働能力喪失率は逸失利益の計算に必要
交通事故によるケガの治療を続けたものの後遺障害が残ってしまい、事故前と同様に働くことが難しくなると、収入も減少することが考えられます。
このように、事故がなければ将来得られていたであろう利益を「逸失利益」と呼び、加害者側に請求することができます。
逸失利益は、事故当時の年収など、いくつかの数値をかけ合わせることで計算します。
そして、労働能力喪失率は、事故前を100として後遺障害が残ったことで労働能力がどの程度低下したかを示すもので、逸失利益の計算に必要な数値のひとつです。
1.労働能力喪失率が高いと逸失利益は高額になる
後遺障害の逸失利益は、事故当時の収入や労働能力喪失率、仕事をリタイアする年齢までの年数(就労可能年数)など踏まえ、次のように計算します。
- 後遺障害逸失利益
- 基礎収入(年間収入額) ✕ 労働能力喪失率 ✕ 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失率の数値が高いと、交通事故によって労働能力が大きく失われたことになるため、逸失利益の金額も高くなります。
なお、ライプニッツ係数は、将来にわたって得られたはずの利益を、逸失利益として前倒しで一度に受け取ることで発生する利息を控除するための指数です。
2.後遺障害の等級ごとに喪失率が決められている
後遺障害は、治療後に残った症状の程度に応じ、1級から14級までの等級に分類されます。
そして、労働能力喪失率の数値は等級ごとに定められています。各等級の喪失率は次の通りです。
等級 | 喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
等級 | 喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
3.必ずしも表の数値通りに計算されるわけではない
後遺障害の等級認定を受けると、保険会社は表にある等級ごとの労働能力喪失率を用いて逸失利益を算出します。
しかし、後遺障害の症状が仕事に与える影響などを考慮し、喪失率を調整するケースもあります。
たとえば、後遺障害10級の喪失率は27%ですが、症状が業務に影響せず、収入も減少していないとして、20%など表よりも低い数値で算出することがあるのです。
一方で職業によっては、同じ症状でも他の職業に比べて業務への影響が大きくなることもあるでしょう。
このようなケースでは、表の数値以上の喪失率が認められる可能性があります。
4.等級ごとの数値以上の喪失率が認められた裁判例
業務への影響を踏まえ、裁判所から等級ごとに定められた数値以上の労働能力喪失率が認められた裁判例を紹介します。
4-1.後遺障害14級(5%)で50%の喪失率が認められた事例
後遺障害14級の認定を受けた被害者に対し、5%ではなく50%の喪失率が認められた事例があります(札幌地裁平成27年2月27日判決)。
ダンスのインストラクターをしていた被害者は、自動車に衝突されて骨盤や右橈尺骨(右腕の骨)などを骨折し、腰仙部痛や右手関節痛といった症状が残ったため後遺障害14級の認定を受けました。
裁判所は、後遺障害によりインストラクターの仕事を続けられなくなり、新たな仕事では収入が大きく減少したといった事情を考慮し、喪失率の大幅な引き上げを認めました。
4-2.後遺障害10級(27%)で40%の喪失率が認められた事例
続いて、後遺障害10級の認定を受けた被害者に、27%ではなく40%の喪失率が認められた事例です(東京地裁平成18年12月25日判決)。
看護師をしていた被害者は、自転車で走行中に自動車に衝突されたことで、正面を見たときに物が二重に見える複視の症状が残り、後遺障害10級の認定を受けました。
裁判所は、複視の影響で看護師として働くことができなくなり、転職後は収入が減少したほか、別の職種でも従事できる業務が限定されるなどと判断し、喪失率の引き上げを認めました。
5.労働能力喪失率に関する不満は弁護士に相談を
後遺障害の等級認定を受けても、認められた労働能力喪失率の数値によって、逸失利益の金額が異なります。
保険会社が逸失利益を算出した際に適用した喪失率に対し、不満があるときは引き上げを交渉することになります。
しかし、保険会社に対して、後遺障害の症状が業務に与える具体的な影響について主張・立証する必要があるため、専門知識がなければ交渉を成功させるのは不可能に近いです。
納得できる逸失利益の獲得を目指すためには、交通事故に詳しい弁護士に相談し、示談交渉を依頼することをおすすめします。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。