逸失利益
逸失利益の計算に必要な基礎収入とは何ですか?
交通事故による逸失利益を加害者側に請求する際、計算に必要となる事故当時の被害者の収入のことです。基礎収入の確認方法は、会社員や自営業者など、被害者の職業によって異なります。
0.逸失利益の計算に必要な「基礎収入」
交通事故で何らかの後遺障害が残ると、事故前と同じように働くことができなくなり、収入が減少するだけでなく、完全に途絶えてしまう可能性もあります。
また、被害者が亡くなった場合は、完全に収入が途絶えてしまうことになります。
事故により後遺障害が残ったり、亡くなったりしなければ、将来得られていたはずの収入を「逸失利益」と呼び、加害者側に損害として請求できます。
逸失利益は、事故当時に被害者が得ていた収入をもとに計算し、この収入を「基礎収入」と呼びます。
1.基礎収入の確認方法は職業によって異なる
基礎収入の確認方法は、会社員や自営業者など、被害者の職業によって異なります。
また、逸失利益が認められるのは原則として収入がある人ですが、専業主婦(主夫)や学生、失業者など、収入がない人も逸失利益が認められる場合があります。
これから、次のような職業について、基礎収入の確認方法を説明していきます。
- 会社員など給与所得者
- 会社役員
- 自営業など個人事業主
- 子ども・学生
- 無職・失業者
なお、株取引や家賃収入を得ているなど、いわゆる不労所得者は事故により収入が減少しないとして逸失利益が認められないのが原則です。
2.会社員など給与所得者
原則として、交通事故に遭う前年の年収額です。具体的には、源泉徴収票などから判断します。
基礎収入は手取り額ではなく、税引き前の総支給額が基礎収入に該当します。
また、基本給だけでなく、賞与(ボーナス)や各種手当も含まれます。
2-1.被害者が30歳未満の場合
被害者が若年労働者(30歳未満)だと、事故前年の年収を基礎収入とすると将来の昇給などが反映されず、逸失利益の金額が低くなってしまう可能性があります。
もし、事故前年の収入が「賃金センサス」の平均賃金を下回っている場合、賃金センサスの全年齢平均賃金を用いて計算することもあります。
2-2.賃金センサスとは
「賃金センサス」とは、厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査 」の調査結果をまとめた資料の通称のことです。
賃金構造基本統計調査では、性別や年齢、学歴、雇用形態、会社規模といったさまざまな観点から、賃金について分析しています。
交通事故の逸失利益を計算する際、平均賃金を基礎収入とする場合は賃金センサスの数値を引用することが一般的です。
3.会社役員
会社役員が受け取る報酬は、大きく次の2種類に分けられます。
- 利益配当部分:実際の労働の有無にかかわらず支払われる報酬
- 労働対価部分:実際の労働に対する報酬
このうち、基礎収入にあたるのは、実際の労働に対する報酬である「労働対価部分」のみです。
「利益配当部分」は、労働の有無にかかわらず支払われるため、後遺障害による賃金の低下といった影響は受けないとして、基礎収入に含まれないと扱われます。
4.自営業など個人事業主
個人事業主の基礎収入は原則として、事故前年度の確定申告に記載された申告所得額から、青色申告控除や専従者控除の金額を控除する前の金額です。
被害者が確定申告をしていなければ、通帳や帳簿、領収証といった資料から収入を証明するか、賃金センサスの平均賃金を用いることもあります。
また、申告所得額よりも実際の収入の方が多ければ、帳簿などの資料から実際の収入を証明することで、実際の収入を基礎収入にできる可能性があります。
ただし、帳簿などの資料から収入を証明する場合、どこまで基礎収入として認めるかという点で、加害者側と争いになる可能性があるため注意しましょう。
加害者側が基礎収入について争ってきた場合は、逸失利益の金額で損をすることがないよう、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
5.専業主婦(主夫)
専業主婦(主夫)の基礎収入は、賃金センサスに記載された女性の全年齢平均賃金の金額です。
被害者が高齢の場合、全年齢の平均賃金を用いると逸失利益が高額になるため、年齢別の平均賃金を用いたり、全年齢の平均賃金から何割か差し引いたりすることが一般的です。
また、仕事をしていて収入がある兼業主婦(主夫)が被害者の場合、実際の年収と女性の全年齢平均賃金を比較して高い方の金額を基礎収入とします。
6.子ども・学生
子どもや学生の基礎収入は、賃金センサスに記載された男女別の全年齢平均賃金の金額です。
ただし、女性の平均賃金は男性よりも低いので、女児の逸失利益も男児より少なくなってしまいます。
そのため、被害者が女児の場合は、男女合わせた平均賃金を用いることが一般的です。
また、被害者が大学生の場合、大卒者の平均賃金を用います。もし、実際に内定が決まっていれば、内定先の平均賃金を用いるケースもあります。
7.無職・失業者
逸失利益は原則として、被害者に収入がなければ請求が認められません。
ただし、就職・転職活動中に事故に遭った、事故当時に内定が決まっていたなどのケースでは、事故がなければ収入が得られていた可能性が高いため、逸失利益が認められる場合があります。
このようなケースの基礎収入は、前職の収入や賃金センサスの平均賃金などを用います。
8.性別・年齢層別の平均賃金(2022年版)
2022年版の賃金センサスをもとに、賞与なども含めた平均年収を性別、年齢層別にまとめました。
平均賃金を基礎収入として逸失利益を計算する際、ぜひ参考にしてください。
男女計 | 男性 | 女性 | |
---|---|---|---|
全年齢 | 496万5,700円 | 554万9,100円 | 394万3,500円 |
~19歳歳 | 255万4,300円 | 265万3,900円 | 238万8,200円 |
20~24歳 | 327万1,800円 | 340万1,800円 | 313万1,200円 |
25~29歳 | 403万5,900円 | 427万3,600円 | 372万6,300円 |
30~34歳 | 456万8,500円 | 495万9,000円 | 390万7,800円 |
35~39歳 | 508万6,500円 | 560万500円 | 411万1,400円 |
40~44歳 | 540万6,000円 | 600万8,200円 | 423万8,500円 |
45~49歳 | 563万5,300円 | 636万800円 | 431万7,100円 |
50~54歳 | 587万7,500円 | 672万2,600円 | 431万5,800円 |
55~59歳 | 590万2,900円 | 674万100円 | 428万700円 |
60~64歳 | 444万8,000円 | 490万4,500円 | 343万6,000円 |
65~69歳 | 360万2,800円 | 385万7,500円 | 297万5,500円 |
70歳~ | 322万4,100円 | 332万7,900円 | 295万5,200円 |
なお、賃金構造基本統計調査は毎年行われるので、平均賃金を確認する際は、最新の賃金センサスを参照するようにしましょう。
9.逸失利益の金額に関する不満は弁護士に相談
逸失利益の金額は、慰謝料といったほかの損害賠償金とともに、示談交渉の場で加害者側の保険会社から提示されることが一般的です。
そして、保険会社は被害者への支払い額を抑えるため、逸失利益の金額が少なくなるよう、基礎収入を実際よりも低くして計算する場合があります。
保険会社から提示された逸失利益の金額に不満がある場合、保険会社に増額を求めることになります。
しかし、保険会社は交通事故や交渉の知識と経験が豊富なので、被害者が自ら増額を求めても応じてもらえないケースが大半です。
この点、交通事故に詳しい弁護士に依頼すれば、逸失利益の金額を適切に計算し、その金額による支払いを法的な視点から保険会社と示談交渉します。
また、弁護士に依頼することで、慰謝料など逸失利益以外の増額も期待できる、資料の収集や保険会社とのやり取りを任せられるなど、多くのメリットがあります。
逸失利益や慰謝料などの金額で損をすることを回避し、発生した損害に対して適切な賠償請求ができるよう、弁護士に相談することをおすすめします。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。