【弁護士監修】交通事故の実況見分とは?対応方法や注意点を詳しく解説!
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
0.交通事故を警察に報告すると実況見分が行われる
交通事故の発生について警察に報告すると、現場に訪れた警察官が事故の状況などを詳しく確認するため実況見分を行います。そして、実況見分の結果を記録した実況見分調書を作成します。
実況見分では警察官から多くの質問を受けますが、実況見分調書は加害者側との示談交渉などで重要な資料となるので、正しく対応することが大切です。
このコラムでは、実況見分の対応方法や注意点について、交通事故に詳しい弁護士が説明します。実況見分調書が正確に作成されなかったために、示談交渉が不利となってしまう事態が生じないようぜひ最後までお読みください。
1.そもそも実況見分とは
交通事故の発生について警察に報告すると、現場を訪れた警察官が事故の状況について詳しく調査します。この調査を実況見分と呼びます。
なお、交通事故の発生に関する警察への報告は法律で義務付けられています(道路交通法第72条1項後段)。報告を怠ると、3か月以下の懲役、または、5万円以下の罰金が科される可能性があるため、必ず報告しましょう。
1-1.実況見分には被害者などの関係者が立ち会う
実況見分には、事故の被害者や加害者、目撃者といった関係者が立ち会います。実況見分に立ち会った関係者は、警察から事故の状況について、さまざまな質問を受けることになります。
実況見分の結果は実況見分調書という書類としてまとめられます。実況見分調書は交通事故の状況を説明する証拠であり、加害者側との示談交渉などで重要な資料となります。
実況見分調書が正しく作成されないと、適切な金額の損害賠償金が支払われない可能性もあるので、警察官の質問には正確に答えることが重要です。
1-2.物損事故では実況見分が行われない
実況見分が行われるのは、事故による死傷者が発生した人身事故の場合です。車両や所持品、積荷といった物が壊れたものの、死傷者が発生しなかった物損事故では実況見分が行われず、聞き取りによる捜査のみが行われます。
そして、実況見分調書の代わりに、事故の内容を簡単に記した物件事故報告書が作成されます。
警察に報告するにあたり、むち打ちなどのケガは事故から数時間後や数日後に症状が出る場合がある点に注意しましょう。
事故直後は痛みなどの症状がなかったため、物損事故として警察に報告するケースが少なくありません。そのため、実際は事故によってケガをしたのに、物損事故として処理されてしまうことがあるのです。
物損事故として処理されたままだと、加害者側に治療費や慰謝料などを請求しても、事故によるケガではないとして支払いを拒否される可能性があります。慰謝料などが支払われたとしても、事故の状況を詳しく説明する実況見分調書がなければ、実際の被害よりも少額しか受け取れないおそれがあるのです。
事故後、しばらくしてから症状が出てきたような場合は、病院を受診して医師に診断書を作成してもらいましょう。診断書を受け取ったら改めて警察に連絡し、改めて人身事故として実況見分を実施してもらうことも重要です。
2.現場検証との違いは?
警察官が事故現場で行う捜査として、実況見分のほかに現場検証があります。実況見分と現場検証の違いは、任意捜査か強制捜査かという点です。
実況見分は任意捜査なので、関係者の立ち合いは強制されません。これに対して現場検証は、裁判所の令状に基づいて強制的に行われます。
現場検証は、ひき逃げや飲酒運転による事故など、事件性のある事故で行われることが一般的です。
3.実況見分に立ち会う際のポイント
実況見分に立ち会う際に注意するべきポイントを解説します。
3-1.必ず警察に連絡する
実況見分は、交通事故について警察に通報しなければ実施されません。また、先に説明した通り、そもそも警察に事故を報告することは法律で義務付けられているため、事故の発生は必ず報告しましょう。
3-2.実況見分の実施前に写真やメモを残しておく
事故の発生を報告し、警察官が事故現場に到着するまでの間、事故現場や事故車両の状況がわかるよう、動画や写真の撮影をしておきましょう。事故時の信号の色や路面の状況、車両の走行速度、ブレーキをかけたり、ハンドルを切ったりした場所などの情報をメモに残しておくことも重要です。
ただし、事故が発生したら警察への報告だけでなく、負傷者の救護や事故車両の移動など、事故現場での危険を防止する義務も生じます(道路交通法第72条1項前段)。動画や写真の撮影、メモの作成などを優先し、これらの義務を怠ってしまうことがないように注意しましょう。
3-3.警察からの質問には正確に答える
事故現場で実況見分が始まると、警察官から事故の状況についてさまざまな質問を受けます。実況見分調書が正しく作成されるよう、正確に回答するようにしましょう。
警察官の発言に流されないことも重要です。たとえば、「それは本当ですか?」「相手はこのように言っていますよ」などと言われると、自分の記憶を疑ってしまうかもしれません。
しかし、証言が二転三転すると信頼性を疑われてしまう可能性があるので、自信をもって回答できることは堂々と主張しましょう。
事故現場での実況見分に加えて警察署で聞き取りによる捜査が行われ、加害者に対する処罰感情などを尋ねられる場合もあります。聞き取り捜査の内容は供述調書という書類としてまとめられるため、やはり正しく回答することが重要です。
3-4.実況見分調書へのサイン
実況見分や聞き取り捜査が行われると、それぞれの結果をまとめた実況見分調書と供述調書が作成され、内容の確認を求められます。内容に間違いがなければサインしましょう。
実況見分調書には、主に次のような内容が記載されています。
- 事故が発生した日時や天候
- 実況見分を実施した日時や天候
- 実況見分を行なった(事故が発生した)場所や道路の名前
- 道路の状況(路面の状況、見通しの良さ、信号の有無など)
- 車両の状況(車種や番号、サイズ、損害の部位や程度など)
- 立会人(被害者、加害者、目撃者)が証言した内容
供述調書には、警察署での聞き取り捜査で発言した内容が記載されます。
実況見分調書や供述調書にサインした後で内容を訂正することは非常に困難です。質問に正しく答えたうえで、それぞれの調書をきちんと確認し、間違いがあればサインする前に訂正を求めましょう。
4.実況見分に正しく対応しなければならない理由
実況見分は交通事故の大きさによって数十分で終わることもあれば、長くて2時間ほどかかる場合もあります。また、警察官からさまざまな質問を受けるため、対応するのが煩わしく感じる人もいるかもしれません。
しかし、警察官からの質問に正しく回答するなど適切に対応しなければ、加害者側と過失割合で争いになった場合、不利になってしまう可能性があります。その結果、支払われる損害賠償金が少なくなってしまうかもしれません。
過失割合とは、交通事故の発生に対する被害者と加害者の責任の程度を数値化したものです。
信号待ちの途中で追突されるなど、被害者にまったく責任がない事故もありますが、被害者にも何らかの落ち度があるケースは少なくありません。被害者にも過失割合が認められた場合、支払われる損害賠償金が割合の大きさに応じて減額されます(過失相殺)。
加害者側との示談交渉で過失割合を決める際、実況見分調書が事故の状況を証明する証拠として重要な役割を果たします。しかし、実況見分に正しく対応しなければ、事故の状況を正確に反映した実況見分調書が作成されません。
加害者側は少しでも自分が有利になるよう警察官に証言することも考えられます。被害者にとって不利な内容の実況見分調書が作成されると、被害者の過失割合が大きくなる可能性も高くなってしまいます。
事故により大ケガを負うなど損害が大きい場合、過失割合による減額幅も大きくなります。事故の状況を適切に反映した実況見分調書となるよう、実況見分には正しく対応することが重要なのです。
実況見分への対応や過失割合に関する争いなどで不安がある場合、できるだけ早く弁護士に相談し、アドバイスを求めることをおすすめします。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。