【弁護士監修】交通事故の過失割合はどのように決まる?基本的な考え方を解説!
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
0.過失割合は損害賠償金の金額に影響する
信号待ちの停止中に追突されたなど、交通事故の発生に対して被害者にまったく過失(落ち度)がない場合もあります。しかし、歩行中の被害者が信号無視をしていたなど、被害者にも何らかの過失があるケースも少なくありません。
事故の発生に対し、被害者と加害者のそれぞれに認められる過失の大きさを数値化したものが「過失割合」です。過失割合によって、支払われる損害賠償金が大幅に減額される可能性もあるので、どの程度の過失割合が認められるかは非常に重要です。
このコラムでは、過失割合がどのように決められるのか、基本的な考え方を交通事故に詳しい弁護士が解説します。損害賠償金の金額で損をすることがないよう、ぜひ最後までお読みください。
1.過失相殺によって損害賠償金が減額される
過失割合とは、交通事故が発生した原因について、加害者と被害者にそれぞれどの程度の過失があるかを数値化し、割合として示したものです。たとえば、被害者に全く過失がなければ「0:100」ですし、被害者に20%の過失が認められれば「20:80」となります。
被害者にも過失がある場合は、過失割合の大きさに応じて損害賠償金が減額されます(民法第722条2項)。これを「過失相殺」と呼びます。
交通事故の被害者であるにもかかわらず、なぜ過失割合が認められると過失相殺によって損害賠償金が減額されてしまうのでしょうか。
その理由は、被害者にも過失があるのに過失相殺が行われないと、事故の発生に対して加害者のみが責任を負うことになり、不公平になってしまうからです。この不公平を是正するため、過失割合の大きさに応じて損害賠償金が減額されるのです。
2.過失割合がつくとどの程度の減額になる?
それでは、被害者に過失割合がついた場合、過失相殺によって損害賠償金がどれくらい減額されるのでしょうか。交通事故によって被害者に500万円の損害が発生したケースを例に考えてみましょう。
2-1.加害者に損害がない場合
被害者の過失が0%だと損害賠償金が減額されません。そのため最終的に支払われる金額も500万円です。
もし20%の過失が認められると、賠償金も20%の減額となるので400万円、30%なら350万円まで減額されます。
2-2.加害者にも損害がある場合
また、加害者にも損害が発生している場合、過失相殺によって被害者の賠償金が減額されるだけではありません。自身の過失割合に応じて加害者の損害を賠償する必要があります。
たとえば、被害者に500万円、加害者に100万円の損害が発生し、過失割合が20:80(被害者が20%)のケースで考えてみましょう。
被害者に支払われる賠償金は500万円から20%の減額となるので400万円、加害者は100万円から80%の減額で20万円となります。そして、賠償金の支払い方法には、お互いに賠償金を支払う「クロス払い」と、お互いの金額を相殺する「相殺払い」の2種類があります。
今回のケースでは、クロス払いだと加害者が被害者に400万円、被害者は加害者に20万円をそれぞれ支払います。相殺払いだと、400万円から20万円を差し引いた380万円を加害者が被害者に支払います。
3.過失割合を決める流れ
過失割合は、主に次のような流れで決めていきます。
- 事故類型に応じた基本の過失割合を確認する
- 個別具体的な事故状況を踏まえて過失割合を修正する
- 加害者側の保険会社から過失割合が提示される
- 提示された過失割合に不満があれば修正を求める
3-1.事故類型に応じた基本の過失割合を確認する
過失割合の決め方は、まず事故類型ごとに設定されている基本の過失割合を確認することから始めます。
基本の過失割合は、「別冊判例タイムズ38号」(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準[全訂5版])にまとめられています。交通事故の損害賠償金を弁護士が計算する際、必ずといってよいほど参照する「赤い本」(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)にもまとめられています。
これらの書籍では、さまざまな事故のシチュエーションを類型化し、それぞれに基本の過失割合を定めています。たとえば、信号機があり、道幅が同じ交差点で車同士の事故が起きた場合、基本の過失割合は次の通りです。
これらの書籍にまとめられている事故類型ごとの基本の過失割合と、実際に発生した事故の状況を照らし合わせ、過失割合を判断することになります。ただし、あくまでも基本の過失割合なので、個別具体的な事故の状況を踏まえ、数値を調整(修正)していきます。
3-2.個別具体的な事故状況を踏まえて過失割合を修正する
同じようなシチュエーションで発生している事故でも、個別具体的な状況までまったく同じになるわけではありません。そのため、基本の過失割合のみでは、実際の事故の状況を正しく反映した過失割合にならない可能性があるのです。
適切な過失割合にするため、事故の個別具体的な状況を踏まえて基本の過失割合を調整(修正)することがあります。修正を行う際に考慮される事情のことを「修正要素」と呼びます。
たとえば、道幅が同じで信号機がある交差点で事故が起きた場合、以下のような違反行為が修正要素となります。
- ウィンカーの合図なし
- 右折禁止違反
- 徐行なし
- 著しい過失(前方不注意、15㎞以上30㎞未満の速度違反、酒気帯び運転)
- 重過失(30㎞以上の速度違反、居眠り・酒酔い運転、無免許運転)
被害者が黄信号、加害者が赤信号の状況で、事故時に加害者がわき見運転をしていたケースを例に、基本の過失割合がどのように修正されるか見てみましょう。被害者が黄信号、加害者が赤信号だと、基本の過失割合は20:80(被害者が20%)です。
基本の過失割合に対し、加害者のわき見運転という修正要素により、加害者の過失割合が10%プラス、被害者は10%マイナスの修正が行われます。そのため、最終的な過失割合は10:90となります。
3-3.加害者側の保険会社から過失割合が提示される
過失割合は、交通事故の現場を捜査した警察が決めると考える方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。過失割合は一般的に、示談交渉の場で加害者側の保険会社から提示されます。
警察は事故の発生について通報を受けると、事故の状況を詳しく調べる実況見分を事故現場で行います。実況見分では、事故の当事者のどちらが加害者か、加害者に重大な過失があったかなどの点は調べますが、過失割合の数値まで決めるわけではありません。
警察が過失割合を決めないのは、過失割合は損害賠償金の金額を決める際に用いるものであり、あくまでも民事上の問題になるからです。
もし、提示された過失割合に納得できなければ、保険会社との交渉などにより、変更を求めていくことになります。
3-4.提示された過失割合に不満があれば修正を求める
「なぜか自分に過失割合がついている」「自分の過失割合が大きすぎる」など、保険会社から提示された過失割合に納得できないケースは少なくありません。過失割合によって損害賠償金の金額も大きく異なってくるため、提示された過失割合に不満があれば、保険会社に修正を求めることが重要です。
たとえば、保険会社に対して過失割合を判断した根拠を尋ねたり、事故の詳しい状況を示す証拠を提出したりして、過失割合の修正を求めていきます。ただし、交通事故の専門的な知識が必要となるため、納得できる過失割合に修正するには、弁護士に相談することをおすすめします。
過失割合に納得がいかない場合の対処方法について、次のコラムで詳しく解説しています。ぜひご参照ください。
4.過失割合で争いになりやすい交通事故
次のようなケースの交通事故は過失割合を巡って加害者側と争いになりやすいため、特に注意が必要です。
- 証拠が乏しい、証言に食い違いがある
- 発生した損害額が大きい
- 駐車場内で起きた事故や自転車同士の事故
4-1.証拠が乏しい、証言に食い違いがある
信号の色や自動車の速度など、事故当時の状況を正確に把握できる客観的な証拠が揃っていると、適切な過失割合を判断しやすくなります。もし、ドライブレコーダーに保存された動画などの証拠が乏しく、被害者と加害者の証言にも食い違いがあると、過失割合で揉めやすくなります。
4-2.発生した損害額が大きい
過失割合が同じでも、損害額が大きいほど、過失相殺による減額幅も大きくなります。たとえば、被害者に20%の過失がある場合、損害額が100万円だと過失相殺による減額は20万円ですが、500万円なら100万円もの減額になります。
損害額が小さければ、早期に解決することを優先するため、過失割合について被害者側と加害者側の双方が譲歩するケースもあります。しかし、損害額が大きい場合は過失割合によって賠償金額も大きく上下するため、揉めることが多くなりがちです。
4-3.駐車場内で起きた事故・自転車同士の事故
「別冊判例タイムズ」には、数多くの事故類型について基本の過失割合がまとめられていますが、駐車場内で発生した交通事故は数パターンしかありません。そのため、どの事故類型にも当てはまらず、基本の過失割合を判断できない可能性も高くなります。
また、自転車同士でも重大な事故を引き起こし、多額の損害が生じることがあります。しかし、自転車と歩行者の事故などは、「別冊判例タイムズ」に記載があるものの、自転車同士の事故は記載がありません。
このように、書籍から基本の過失割合を確認できない事故が発生した場合、過去の裁判例で認められた過失割合などを参考にしながら過失割合を決めていきます。そのため、過失割合に関する主張が食い違い、交渉が難航することがあります。
5.過失割合の疑問や悩みは弁護士に相談を
加害者側の保険会社から提示された過失割合が適切かどうかを判断するのは簡単ではありません。「別冊判例タイムズ」などの書籍から、基本の過失割合や修正要素を正しく選択するには専門知識が求められます。
また、提示された過失割合に不満があっても、交通事故と交渉の専門家である保険会社を相手に修正を認めさせるのは非常に困難です。より適切な基本の過失割合を調べて裏付けとなる証拠を提出しても、新たな証拠を出し、さまざまな理由を説明してくるなど、簡単には修正に応じません。
被害者にとって不利な過失割合のままだと、支払われる損害賠償金額で損をしてしまいます。交通事故に詳しい弁護士に相談し、保険会社との過失割合の交渉を依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、より正確な過失割合を判断するとともに必要な証拠を揃え、法的な視点から保険会社との交渉を進めてくれるでしょう。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。