【弁護士監修】赤い本とは?慰謝料など損害賠償の算定基準を詳しく解説!
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
0.赤い本とは?
交通事故の被害に遭ったとき、慰謝料や休業損害といった損害賠償金がいくらになるかは、被害者にとっては重要な関心事です。
そして、交通事故の損害賠償を計算する方法には「自賠責基準」、「任意保険基準」、「弁護士基準(裁判所基準)」という3種類の基準があります。
そして、「赤い本」とは、3種類のうち賠償金額が最も高額となる弁護士基準について解説した書籍のことです。
弁護士は基本的に、赤い本にもとづいて賠償金を計算し、保険会社と示談交渉を行います。
このコラムでは、交通事故の賠償金を計算するうえで重要な書籍である赤い本について、弁護士が分かりやすく解説します。
1.交通事故に携わる多くの弁護士が参照
赤い本は、東京地方裁判所における交通事故の裁判実務にもとづいた損害賠償額の算定基準を解説する書籍で、参考となる裁判例などが掲載されています。
赤い本は通称で、正式な名称は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」です。
表紙が赤いので「赤い本」と呼ばれています。
東京など首都圏で発生した交通事故について、弁護士が損害賠償金を計算する際、必ずと言ってよいほど赤い本を参照します。
また、首都圏以外の交通事故でも、赤い本を参照することが少なくありません。
赤い本は、日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行しており、弁護士以外の一般の方も購入可能です。
しかし、書店で購入することはできず、日弁連交通事故相談センターに申込書を送るか、都内の弁護士会館にあるセンターの窓口で直接購入します。
2.「青い本」や「黄色い本」などもある
赤い本に似た書籍として、「青本」、「黄色い本」、「緑のしおり(緑本)」と呼ばれる書籍があります。
通称 | 正式名称 | 発行元 |
---|---|---|
青い本 | 交通事故損害額算定基準 | 日弁連交通事故相談センター本部 |
黄色い本 | 交通事故損害賠償算定基準 | 日弁連交通事故相談センター愛知県支部 |
緑のしおり(緑本) | 交通事故損害賠償額算定のしおり | 大阪弁護士会交通事故委員会 |
赤い本は東京地裁の裁判実務にもとづく書籍ですが、青本は全国の裁判所、黄色い本は名古屋地裁、緑のしおりは大阪地裁の各裁判例にもとづいた書籍です。
それぞれの書籍は、損害賠償金の算定方法などが細かい点で異なっており、使用される地域が異なります。
たとえば、黄色い本や緑のしおりは、名古屋地裁や大阪地裁の管轄内の交通事故で参考にされています。
3.赤い本には何が書かれている?
赤い本には、交通事故の損害賠償金について、東京地裁の実務にもとづく計算方法や金額、参考となる裁判例などが幅広く解説されています。
解説されている損害賠償の主な項目として、次のような内容があります。
損害の種類
- 積極損害:治療費、付添看護費、交通費、葬祭費など
- 消極損害:休業損害、後遺障害や死亡による逸失利益など
- 慰謝料:傷害慰謝料(入通院慰謝料)、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料など
- 物損:修理費用、買い替え差額、評価損など
また、過失割合や素因減額、損益相殺など、賠償金の減額事由として考慮される要素についても解説されています。
なお、赤い本は新しい裁判例などが反映されるため、内容が毎年改訂されます。
そのため、賠償金額を計算する際は、事故が発生した年に発行された赤い本を用いることになります。
4.赤い本で計算すると賠償金を増額できる?
交通事故の被害に遭うと、加害者側の保険会社から損害賠償金が提示されます。しかし、本来、法的に認められるはずの金額よりも大幅に少ない額を提示されるケースが大半です。
そして、賠償金の計算方法には、次の3種類の基準があり、どの基準を用いて計算するかで金額が大きく異なります。
- 自賠責基準
- 自賠責保険における損害賠償金の計算基準
- 任意保険基準
- 任意保険会社が独自に定めた自社の支払い基準
- 弁護士基準(裁判所基準)
- 交通事故に関する過去の裁判例で認められてきた賠償金額にもとづいた基準
それぞれの基準によって計算した賠償額の差は、次のような関係にあります。
自賠責基準 ≦ 任意保険基準 < 弁護士基準(裁判所基準)
保険会社は3種類の基準のうち、任意保険基準によって計算した賠償金を提示することが一般的です。
そのため、本来は最も高額になる弁護士基準で計算した賠償金が認められるはずですが、保険会社が提示した金額を受け入れると、損をしてしまうかもしれないのです。
そして、赤い本には、弁護士基準に基づく賠償金の計算方法や金額が記載されています。
つまり、赤い本をもとに賠償金を計算して請求すれば、保険会社が提示した金額から増額できる可能性が高いのです。
5.自賠責基準と弁護士基準の金額差はいくら?
計算に用いる基準によって、賠償金額がどれくらい異なるのでしょうか?
実際に、最も低額な自賠責基準と、最も高額な弁護士基準で慰謝料の金額を計算し、どの程度の差があるのかみてみましょう。
保険会社が計算に使う任意保険基準は、各社が独自に定めたものですが、自賠責基準と同程度であるケースも少なくありません。
弁護士基準で計算した金額を踏まえ、保険会社が提示した金額から、どれくらい増額できる見込みがあるか、参考にしてみてください。
5-1.傷害慰謝料(入通院慰謝料)の比較
交通事故でケガをしてしまい、入院や通院をした場合、傷害慰謝料(入通院慰謝料)を請求することができます。
交通事故で骨折し、2か月(60日間)にわたり通院(実際の治療日数は20回)したケースで、自賠責基準と弁護士基準で計算した傷害慰謝料を比較してみましょう。
現在の自賠責基準では、傷害慰謝料は原則として1日あたり4,300円で計算します。
そして、次の2つの計算式から、少ない日数の方の金額が支払われます。
- 入通院日数 × 4,300
- 実際の治療日数 × 2 × 4,300
今回のケースでは、それぞれ次のように計算できます。
60日× 4,300 = 25万8,000円
20日× 2 × 4,300 = 17万2,000円
このうち、日数の少ない方が支払われるので、自賠責基準の傷害慰謝料は、17万2,000円です。
一方、弁護士基準では52万円となるため、約3倍もの金額差があります。
5-2.後遺障害慰謝料の比較
治療を受けても何らかの症状が残った場合、後遺傷害の等級認定を受けると後遺障害慰謝料を請求することができます。
たとえば、交通事故でむち打ちの後遺症が残ったケースでは、後遺障害14級9号、または12級13号に認定される可能性があります。
それぞれの等級において、後遺障害慰謝料の金額を比較してみましょう。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
どちらの等級でも、自賠責基準と弁護士基準では、3倍以上の差があります。
5-3.死亡慰謝料の比較
残念なことに被害者が事故で亡くなってしまった場合、遺族は死亡慰謝料を請求することができます。
たとえば、被害者に配偶者と未成年の子どもが1人いるケースで、慰謝料の金額を比較してみましょう。
自賠責基準による死亡慰謝料の金額は次の通りです。
被害者本人分 | 400万円 | |
---|---|---|
慰謝料の請求権者が | 1名 | 550万円 |
2名 | 650万円 | |
3名以上 | 750万円 | |
被害者に被扶養者がいる場合 | 上記金額に200万円を加算 |
今回のケースでは、慰謝料の請求権者が2名で、被扶養者がいる場合に該当するため、死亡慰謝料の金額は次のように計算できます。
400万円 + 650万円 + 200万円 = 1,250万円
一方、弁護士基準による死亡慰謝料は、家庭内での被害者の立場などによって異なります。
具体的な金額は次の通りです。
一家の支柱である場合 | 2,800万円 |
---|---|
母親、配偶者の場合 | 2,500万円 |
その他 | 2,000万円~2,500万円 |
一家の支柱が亡くなった場合の弁護士基準による死亡慰謝料は2,800万円です。
自賠責基準で計算した死亡慰謝料と比較すると、2倍以上の差があります。
6.損害賠償金に対する不満は弁護士にご相談を
交通事故の慰謝料などの損害賠償金は、本来、弁護士基準で計算した金額が認められるべきです。
しかし、保険会社からは、自賠責基準と同額程度である任意保険基準で計算した金額を提示されるケースがほとんどです。
そのため、弁護士基準と比較した場合、金額に大きな差が生じるケースが少なくありません。
弁護士基準で計算した賠償金を受け取るためには、保険会社との増額交渉が必要になります。
しかし、少しでも支払いを抑えたい保険会社は、簡単には交渉に応じませんし、そもそも弁護士でなければ相手にしてもらえないことが多いです。
また、交渉に応じたとしても、保険会社は交通事故と保険に関する知識が豊富で、交渉の経験も多いので、対等に議論するのは非常に困難です。
そのため、交通事故に強い弁護士に相談し、保険会社との交渉を任せてしまうことをおすすめします。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、保険会社との示談交渉により損害賠償金の増額に成功した実績が豊富です。
交通事故に関するご相談は無料ですので、お気軽にご相談ください。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。