【弁護士監修】交通事故の休業補償とは?休業損害との違いや補償額を解説!
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
0.業務中・通勤中の事故なら休業補償を受け取れる
業務中または通勤中に事故が発生し、ケガをしたために仕事を休んで収入が減少した場合、労災保険の請求をすれば「休業補償」が支給されます。
その一方で、事故によるケガで収入が減少した分を補償する損害賠償金として、「休業損害」を加害者側に請求することもできます。
休業補償と休業損害はどちらも事故後の減収を補うお金ですが、どのような違いがあるのでしょうか?
このコラムでは、休業補償と休業損害との違いや補償額などについて、交通事故や労災(労働災害)に詳しい弁護士が解説します。勤務中・通勤中に事故に遭われた方はもちろん、業務や通勤で頻繁に運転する方もぜひ最後までお読みください。
1.そもそも休業補償とは
休業補償は、業務中や通勤中の交通事故によりケガを負い、働くことができなくなったために減少した収入を補償するお金で、労災保険から支給されます。
休業補償と同じように、事故によるケガが原因で減収が生じた場合に受け取れるお金として休業損害があります。休業補償は業務中・通勤中の事故のみが対象ですが、休業損害はプライベートな事故も対象となるなど、異なる点が少なくありません。
2.休業補償と休業損害の主な違い
休業補償と休業損害は、以下のような点で異なります。次に、それぞれの違いについて説明していきます。
休業補償 | 休業損害 | |
---|---|---|
請求先 | 労災保険 | 交通事故の加害者 (自賠責保険、任意保険) |
対象者 | 会社員やパート、アルバイト (事業主や専業主婦、無職者は対象外) | 会社員やパート、アルバイト、自営業者、 専業主婦、一部の無職者 |
対象となる事故 | 業務中・通勤中の事故 | すべての人身事故 |
補償の開始時期 | 休業4日目から | 休業初日から |
有給休暇の取得 | 支給の対象外 | 支給の対象 |
過失割合の影響 | なし | あり |
上限額 | なし | あり ※自賠責保険に請求する場合 |
支給の打ち切り | なし | あり |
2-1.請求先
休業補償は労災保険から支給されるため、労災保険に対して請求します。
休業損害は、慰謝料などと同様に損害賠償金の一種なので、加害者や加害者が加入している自賠責保険、任意保険に請求します。
2-2.対象者
休業補償が支給される対象者は、基本的に会社員やパート、アルバイトなど、雇用されて働いている人です。経営者や自営業者などは原則として対象外ですが、特別加入という制度を利用した中小企業の事業主や一人親方などは、補償の対象となる場合があります。
休業損害は、雇用されている人だけでなく自営業者なども対象となります。また、専業主婦や一部の無職者など、収入がない人も認められる場合があります。
2-3.対象となる事故
休業補償の対象となるのは業務中や通勤中に発生した事故です。
業務中の事故(業務災害)とは、労働者が使用者の支配下で業務を遂行していたときに発生した事故を意味します。通勤中の事故(通勤災害)は、自宅と職場を往復している間に生じた事故などが該当します。
なお、業務の準備中や出張中に発生した事故も業務中に含まれると考えられます。ただし、業務中でも、労働者自身の利益を目的とした行為や、業務から逸脱した行為が原因で生じた事故は対象外になる可能性があります。
休業損害は、すべての人身事故が対象です。つまり、業務中や通勤中の事故だけでなく、プライベートでの事故も含まれるため、休業補償よりも広い範囲を補償の対象としています。
2-4.補償の開始時期
休業補償には待期期間があり、休業してから最初の3日間は休業補償が支給されません。ただし、待期期間中の休業補償を支給する義務が勤務先に生じるため、勤務先に請求できます。
一方、休業損害には待期期間がないため、休業した初日から請求が認められます。
2-5.有給休暇の取得
休業補償の場合、有給休暇を取得した日数分は支給の対象外です。
一方、休業損害は有給休暇を取得した日数についても請求が認められます。有給休暇は本来、自由なタイミングで取得できますが、事故が原因で取得することになったため、損害として請求が認められるのです。
2-6.過失割合の影響
交通事故の発生に対して被害者にも落ち度(過失)が認められる場合、慰謝料などの損害賠償金が過失の程度に応じて減額する方法で調整されます。過失の程度を数値化したものを過失割合と呼び、賠償金を調整することを過失相殺と呼びます(民法第722条2項)。
休業補償の場合、被害者に過失が認められたとしても過失相殺により減額されることはありません。
休業損害は損害賠償金の一種なので、過失割合の数値に応じて減額を受けることになります。
2-7.上限額
休業補償には、支給される金額に上限額はありません。
休業損害については、自賠責保険から支払われる分に対して120万円の上限額が定められています(交通事故でケガをした場合)。この上限額には、休業損害だけでなく、治療費や入通院慰謝料(傷害慰謝料)など、さまざまなお金が含まれます。
上限額を超える損害が発生した場合、加害者が任意保険に加入していればその保険会社に、加入していなければ加害者本人に超えた分を請求します。
2-8.支給の打ち切り
休業補償は、原則としてケガが完治するか、治療を続けても症状が改善しない症状固定の診断を受けるまで支給されます。そのため、治療の途中で打ち切られることはありません。
一方で休業損害は、治療中に保険会社から打ち切りを打診されるケースがあります。
打ち切りの打診に納得できない場合、主治医が作成した治療継続の必要性を説明する意見書を保険会社に提出するなど、支払い対応の継続を求めましょう。弁護士に相談し、継続の交渉を依頼することも有効な手段です。
3.休業補償の補償額は収入の80%
休業補償は、1日分の収入の80%が支給されます。具体的には、休業補償から60%が支給されるとともに、20%の「休業特別支給金」が上乗せされます。
休業損害の場合、自賠責保険からは1日あたり6,100円が支払われます。6,100円を超えて収入が減少していることを証明できれば、1日あたり1万9,000円を限度として請求が可能です。
なお、自賠責保険から支払われる金額以上の減収が生じている場合、加害者側の任意保険会社や加害者本人に請求します。
4.休業補償と休業損害を併用するメリット
休業補償と休業損害の両方を請求することができます。そして両方を請求することにはさまざまなメリットがあります。
4-1.最大で120%分が支給される
休業損害と休業補償の両方を請求しても、認められる金額は二重取りにならないように調整されます。ただし、休業特別支給金は別途支給されます。
そのため、休業補償と休業損害の両方を請求して収入の1日分の100%が支給された場合、休業特別支給金の20%が上乗せされます。つまり、最大で120%分の補償を受けられる場合があるのです。
4-2.それぞれのデメリットを補える
休業補償は過失割合の影響を受けませんが、有給の取得日は支給の対象外です。一方、休業損害は過失割合が認められると減額されますが、有給の取得日も対象となります。
このように休業補償と休業損害には、それぞれメリットとデメリットがあります。両方を請求することでデメリットを補えるため、最大限の支給を受けられる可能性が高くなります。
5.休業補償の請求は勤務先を通じて手続きする
休業補償の請求は、基本的に勤務先が手続きします。
まずは、厚生労働省のホームページから請求書をダウンロードし、必要事項を記入します。請求書を勤務先の人事や労務などの担当者に提出し、手続きを進めるよう依頼しましょう。申請から約1か月後に支給されます。
また、すでにご説明した通り、休業補償には3日間の待機期間があり、この期間は労災保険からの支給が受けられません。
しかし、勤務先に対しては待期期間分を請求することができます。ただし、この場合であっても、通勤中の事故は対象外である点や、休業特別支給金は認められないため60%までしか補償されない点などに注意が必要です。
休業補償の請求について、勤務先に手続きを求めているのにもかかわらず、勤務先が対応してくれない場合、弁護士や労働基準監督署などに相談することが重要です。
6.業務中・通勤中の事故は弁護士にご相談を
業務中や通勤中に交通事故の被害に遭い、ケガを負った場合は弁護士に相談しましょう。
労災保険からは休業補償だけでなく、被害の内容に応じて療養補償や障害補償などが支給されます。ただし、手続きが複雑で進め方がわからない場合や、本来支給される補償を見落とす可能性もあるため、まずは弁護士への相談をおすすめします。
また、加害者側にも休業損害を請求する場合、実際の減収分よりも少ない金額が保険会社から提示されるケースが大半です。適切な金額の休業損害を受け取るには増額交渉が必要ですが、保険会社が増額を簡単に認めることはありません。
この点、弁護士に交渉を依頼することで、弁護士は休業損害の適切な金額を算出し、その金額まで増額するよう交渉してくれます。また、慰謝料などの増額も交渉してくれるため、最大限の賠償金を受け取れる可能性が高まります。
弁護士法人プロテクトスタンスでは、交渉を通じて休業損害の獲得や増額に成功した事例が豊富です。労災に詳しい弁護士も在籍していますので、ぜひご相談ください。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。