【弁護士監修】交通事故でむち打ちになった場合の後遺障害・慰謝料を詳しく解説
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
0.むち打ちとは?
むち打ちとは、交通事故などの衝撃により、鞭がしなるように首が振られたときに生じるケガのことです。
むち打ちは一般的な呼び名で、正式には、頸椎捻挫、頸部挫傷、外傷性頸部症候群などと診断されます。
むち打ちには、痛みやしびれ、頭痛や吐き気といった症状がありますが、治療を受けても改善が見込めない場合、後遺障害の等級認定を受けることで、後遺障害慰謝料を請求することができます。
このコラムでは、むち打ちの症状や、後遺障害が残った場合の慰謝料などについて、交通事故に詳しい弁護士が解説します。
1.むち打ちが引き起こす主な症状
突然の追突事故などで頸部(首)に大きな衝撃を受け、鞭をしなるように首が振られてしまうと、痛みやしびれなどの症状が現れることがあります。
交通事故などの強い衝撃を受け、首に不自然な力がかかることで、様々な症状を引き起こすことを「むち打ち(症)」と呼んでいます。
むち打ちは、痛みやしびれといった症状が現れることが多いですが、他にも様々な症状を引き起こすことがあります。
むち打ちの主な症状として、次のようなものがあります。
むち打ちの主な症状
頸部(首)、頭、腕、手などの痛みやしびれ / 頭痛 / 吐き気 / 目まい / 耳鳴り /
肩こり / 倦怠感(疲労感) / 可動域制限 / 腰痛
どのような症状が現れるかについては、交通事故の衝撃の大きさや被害の程度、受傷者の年齢など、様々な条件によって異なります。
2.むち打ちには様々な種類がある
ひとくちにむち打ちと言っても、実は複数の種類があり、現れる症状やその程度も、それぞれ異なる場合があります。主なむち打ちの種類と特徴を紹介します。
2-1.頸椎捻挫型
頸椎捻挫型は、頸部の筋線維、前後の縦靭帯、椎間関節包などの軟部組織が過度に伸びたり、断裂したりした場合に生じる可能性があります。
また、頸椎捻挫型は多くの人が発症し、むち打ち全体で約70%程度がこの類型に該当するといわれています。
2-2.神経根症状型
神経根症状型は、交通事故の衝撃で頸椎が歪んでしまい、その結果、脊髄から出ている神経根が圧迫されることで様々な症状を引き起こすものです。
神経根症状型の場合、むち打ちの主な症状だけでなく、圧迫されている神経が支配する領域に知覚障害などが現れるケースもあります。
2-3.バレー・リュー症候群型
バレー・リュー症状型は、交感神経と副交感神経からなる「自律神経」を損傷することで、様々な症状を引き起こす類型とされています。
バレー・リュー症状型の主な症状として、耳鳴りや頭痛、めまい、吐き気などが現れることが多いでしょう。
バレー・リュー症状型は、「後部交感神経症候群」と呼ばれることがあり、交通事故による自律神経失調症ともいわれています。
2-4.脳脊髄液減少症
脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)は、交通事故の衝撃により、脳脊髄液が漏出している状態のことです。
この類型では、慢性的な倦怠感(だるさ)を感じることがあり、気圧などの影響も受けやすいという特徴があります。
2-5.脊髄損傷型
脊髄損傷型は、脊髄本体が損傷したことが原因で、様々な症状を引き起こします。
重度な症状が現れやすいという特徴があり、むち打ちの主な症状に加えて、運動障害や排尿障害などの重い症状が出てしまう可能性があります。
3.むち打ちの治療期間と主な治療法
むち打ちの一般的な治療期間は、約3~6か月といわれています。
しかし、重度な症状が出やすい脊髄損傷型などの場合は、6か月以上かかってしまう場合もあります。
そして、むち打ちに対して行われる主な治療方法としては、次のような種類があります。
治療方法 | 内容 |
---|---|
牽引療法 | 【 方法 】 器械または徒手で頸部を引っ張る。 |
【 効果 】 神経の圧迫緩和、血行促進、症状の緩和など。 | |
運動療法 | 【 方法 】 可動域訓練や、筋肉強化のための運動を行う。 |
【 効果 】 可動域の改善、筋力の維持など。 | |
電気療法 | 【 方法 】 患部などに電気で刺激を与える。 |
【 効果 】 筋肉の凝りがほぐれる、血行促進、症状の緩和。 | |
温熱療法 | 【 方法 】 ホットパックなどで筋肉を温める。 |
【 効果 】 血行促進、症状の緩和など。 | |
神経ブロック注射 | 【 方法 】 局所麻酔薬を神経やその周辺に注射する。 |
【 効果 】 一時的な痛みの緩和、症状の緩和など。 |
病院を受診すると様々な検査が行われ、症状が診断されます。
そして、診断された症状に適した方針で、むち打ちの治療が行われていきます。
3-1.整骨院などでも施術を受けられる
むち打ちは、病院だけでなく、整骨院や接骨院、鍼灸院などでも施術を受けることが可能です。
病院での治療と合わせて受けることで、より早期の回復を目指すことができるでしょう。
3-2.病院以外に通院する際の注意点
整骨院などへの通院を希望する場合、病院の医師に、整骨院などに通院する必要性を確認したうえで、加害者の保険会社に連絡することを忘れないようにしましょう。
確認や連絡を怠ってしまうと、整骨院などの施術費が治療費として支払われない場合があるので、注意が必要です。
4.むち打ちの症状が残ったら後遺障害の手続きを
むち打ちの治療を続けても、症状の改善が見込めない場合があります。
たとえば、むち打ちの治療を6か月以上継続しても、回復の兆しが見られないときには、医師から「症状固定」の診断を受けることがあります。
症状固定の診断を受けた際に残存している症状が後遺症です。
そして、後遺症が残った場合は、自賠責保険会社に対して後遺障害等級の認定手続きを申請することができます。
そして、後遺障害の等級認定を受けると、後遺障害の慰謝料や逸失利益などを請求できるようになります。
5.むち打ちは後遺障害の14級または12級にあたる
後遺障害は、症状に応じて1級から14級(要介護状態は1級・2級)に分類されています。
そして、むち打ちの場合、症状の状態などによって14級9号か12級13号に該当する可能性があります。
5-1.後遺障害14級9号に該当する場合
むち打ちが「局部に神経症状を残すもの」と判断された場合、14級9号に該当します。
具体的には、事故直後から一貫して症状が続いており、神経学的所見などから、後遺症の存在が説明可能であれば、認定される可能性があります。
もう少しわかりやすく説明すると、画像検査などによって後遺症の存在を客観的に証明できないものの、症状が残っていることを医学的に説明できれば認定される場合があるのです。
5-2.後遺障害12級9号に該当する場合
むち打ちが「局部に頑固な神経症状を残すもの」と判断されると、12級13号に該当します。
14級9号の場合と異なり、CTやMRI画像検査などで得られた客観的な他覚的所見などで異常が認められ、後遺症の存在が医学的に証明できるときに認められる可能性があります。
6.等級によって慰謝料などの金額が大きく異なる
後遺障害の14級9号と12級13号のどちらに認定されるかによって、請求できる後遺障害の慰謝料や逸失利益の金額が大きく異なります。
さらに、慰謝料などの算定基準である自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準(裁判所基準)のうち、最も低額な自賠責基準と最も高額な弁護士基準で、14級9号と12級13号の金額を比較してみましょう。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
いずれの算定基準で算出した場合も、認定された等級と算定基準により、請求可能な金額に大きな差が生じていることがわかります。
そのため、まずは適切な診断を受け、正しい後遺障害等級に認定されることが重要です。
7.むち打ちと診断されたら弁護士に相談
むち打ちは、症状の原因を客観的に証明しにくいという特徴があります。
そのため、後遺障害の申請をしても、等級に認定されないケースも少なくありません。
もし、申請したにもかかわらず、認定されずに「非該当」となってしまうと、後遺症が残っていたとしても、後遺障害の慰謝料や逸失利益の請求は認められません。
また、無事に申請が認められたとしても、認定された等級によっては慰謝料などの金額に数倍の開きが生じることになります。
症状に応じた正しい等級に認定され、適切な金額の慰謝料などを請求するためにも、交通事故に詳しい弁護士にできるだけ早く相談することをおすすめします。
7-1.正しい等級認定となるようサポートしてくれる
医師はケガを治療する専門家ではありますが、後遺障害の制度に関して必ずしも詳しいわけではありません。
そのため、適切な等級認定を受けることを目的として、必要な検査を行なったり、診断書を作成したりするとは限らないのです。
この点、弁護士であれば、適切な等級認定を受けられるよう、検査の受け方や診断書の作成などに対して、アドバイスやサポートをしてくれます。
7-2.保険会社と慰謝料などの増額交渉をしてくれる
適切な等級に認定された場合でも、安心することはできません。
後遺障害の等級に認定されると、保険会社と損害賠償に関する交渉が始まり、慰謝料の金額などが保険会社から提示されます。
慰謝料などの金額は、後遺障害の等級だけでなく、どの算定基準で算出するかによっても、金額が大きく異なります。
すでに説明した通り、後遺障害14級9号に認定された場合、自賠責基準では32万円ですが、弁護士基準では110万円なので、3倍以上もの開きがあります。
保険会社は独自の基準である任意保険基準を用いて慰謝料などを算出することが一般的ですが、その金額は、最も低額な自賠責基準と同程度であることが少なくありません。
しかし、本来は最も高額である弁護士基準によって算出した金額を請求することができるのです。
弁護士基準で算出した金額まで引き上げるには、保険会社に増額を求めることになりますが、交通事故や交渉の知識と経験が豊富な保険会社を相手に、増額を認めさせるのは非常に困難です。
そもそも弁護士などの専門家でなければ交渉に応じないケースもあるので、交通事故に詳しい弁護士に慰謝料などの増額交渉を依頼することが必要です。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。