【弁護士監修】交通事故で逮捕されてしまう場合とは?その後の流れや刑罰を解説!
- この記事を監修した弁護士
- 弁護士 大橋 史典 弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)
0.交通事故の加害者は逮捕される可能性がある
交通事故の加害者になってしまうと、交通法規の違反内容や被害者の状況などにより、刑事事件として責任を問われる可能性があります。
交通事故が刑事事件になると、逮捕されて長期間にわたり身柄を拘束される可能性がありますし、また、起訴されて有罪になり、懲役刑や罰金刑などの刑罰を受けるおそれがあります。
このコラムでは、交通事故の加害者が逮捕されるケースや、逮捕後の手続きの流れ、裁判で有罪になった場合の刑罰などについて、詳しく解説します。
1.交通事故が刑事事件になるケースとは?
交通事故においては、被害者がケガをしたり死亡したりするなど、人身事故の場合は刑事事件になる可能性が高いです。
ただし、人身事故でなくても刑事事件になる可能性はゼロではありません。
1-1.あおり運転は行為自体が刑事事件になる可能性がある
近年、あおり運転がニュースなどで多く報道されるようになり、悲惨な死傷事故も発生しています。
この点、改正道路交通法が2020年6月30日に施行され、あおり運転に対する罰則が設けられました。
そのため、死傷者が発生していなくても、あおり運転の行為それ自体が刑事事件となる可能性があります。
1-2.物損事故でも刑事事件になるケースがある
自動車や所持品などが壊れたものの、死傷者が発生しなかった物損事故の場合、基本的には刑事事件にはなりません。
他人の物を壊すと「器物損壊罪」に該当すると考えられるかもしれませんが、器物損壊罪が成立するのは、わざと(故意に)物を壊した場合です。
そのため、偶発的な交通事故では、器物損壊には当たらないと考えられます。
しかし、他人の建造物を壊してしまった場合は、「運転過失建造物損壊罪」として刑事事件になる可能性があります(道路交通法第116条)。
また、飲酒運転や当て逃げをしたなど、悪質な違反による物損事故も刑事事件になるケースがあります。
2.交通事故の代表的な犯罪と刑罰
次に、交通事故の加害者はどのような犯罪に該当する可能性があるのでしょうか。
交通事故によって成立する代表的な犯罪について、その刑罰を説明します。
2-1.過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法第5条)
過失運転致死傷罪は、わき見運転などの不注意(過失)が原因で事故を起こし、被害者を死傷させることです。
刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。
しかし、被害者の負傷の程度が軽ければ、刑が免除される場合もあります。
2-2.危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法第2条)
危険運転致死傷罪は、危険な運転が原因で人を死傷させることです。
刑罰は、負傷させた場合が15年以下の懲役、人を死亡させた場合が1年以上20年以下の懲役です。
つまり、有罪になれば必ず懲役刑となってしまいます。
危険な運転とは、たとえば、アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態での走行、制御困難なほどの大幅なスピード違反、自動車の直前に侵入したり著しく接近したりするあおり運転、信号無視といった行為が該当します。
2-3.救護義務違反・危険防止措置義務違反(道路交通法第72条1項)
交通事故が起きた場合、自動車などの運転手や同乗者は負傷者を救護しなければなりません(救護義務)。
救護せずに立ち去ると、ひき逃げをしたことになります。
また、後続車が事故を起こすことがないよう、車両を安全な場所へ移動させるなど、危険を防止する義務もあります(危険防止措置義務)。
これらの義務に違反した場合の刑罰は、10年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
2-4.警察への報告義務違反(道路交通法第72条1項)
交通事故を起こした場合、警察に報告する義務が課せられます。
これは人身事故だけでなく物損事故の場合も同様で、物損事故を報告しなければ当て逃げをしたことになってしまいます。
報告する義務に違反した場合の罰則は、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金です。
2-5.飲酒運転(道路交通法第65条1項)
飲酒運転は、酒気帯び運転と酒酔い運転の2種類があります。
酒気帯び運転
呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上、または血液1ミリリットル中に0.3mg以上のアルコール濃度を含んでいる状態
酒酔い運転
アルコール量とかかわりなく、酒を飲んで正常な運転ができない状態
酒気帯び運転に対する刑罰は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金、酒酔い運転は5年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
3.交通事故が刑事事件になると必ず逮捕される?
交通事故が刑事事件になった場合、必ずしも加害者が逮捕されるわけではありません。
逮捕されることなく捜査が行われる場合もあり、このようなケースを「在宅事件」と呼びます。
この点、逮捕されやすい事故としては、次のようなケースが考えられます。
3-1.被害者が大きな被害を受けた
人身事故を起こすと刑事事件になる可能性が高いですが、被害者のケガが軽症の場合は逮捕されずに在宅事件として手続きが進むケースが多いです。
しかし、被害者が重体になったり、死亡したりするなど、大きな被害が発生した場合は、逮捕される可能性が高まります。
3-2.悪質な違反があった
飲酒運転や無免許運転、大幅なスピード超過など、危険性が高く悪質な違反により事故が発生した場合は、逮捕される可能性が高いでしょう。
また、悪質な違反行為は、死傷者が発生していなくても逮捕されるケースもあります。
3-3.逃亡や証拠隠滅のおそれがある
加害者が逃亡や証拠隠滅をする危険性があると警察が判断した場合、逮捕される可能性が高まります。
たとえば、ひき逃げや当て逃げは一度逃亡していると考えられるため、逃亡の可能性が高いと判断されやすいでしょう。
また、証言が二転三転するなど、捜査に非協力的だったり、警察に攻撃的、反抗的な態度をとったりするような場合も、逃亡や証拠隠滅の危険性が高いと判断されるおそれがあります。
4.逮捕された後の手続きの流れ
交通事故で逮捕された場合、裁判で刑罰が決まるまで、次のような流れで手続きが進みます。
- 警察署にある留置場に身柄が拘束され、警察が最長48時間の取り調べを行う
- 被疑者の身柄が警察から検察官に送致される(送検)
- 検察官が取り調べを行い、24時間以内に起訴または不起訴を判断する
- 24時間以内に判断できない場合、検察官が裁判官に勾留請求する
- 勾留請求が認められると、原則10日間、最長20日間、身柄が拘束される
- 検察官が起訴すると刑事裁判が開かれる
- 刑事裁判で裁判官が有罪か無罪か、また、有罪の場合は刑罰を決める
逮捕された場合、警察や検察官の取り調べ、勾留の期間を含めると、起訴・不起訴の判断がされるまでに最長で23日間も身柄が拘束される可能性があります。
しかし、悪質な違反による交通事故でなければ、警察や検察官の取り調べなどの段階で身柄が解放され、在宅事件として手続きが進められることもあります。
在宅事件となった場合は、検察官などから呼び出されて取り調べを受けることになります。
また、検察官の判断により不起訴処分となった場合、身柄が解放され、刑事裁判は行われないので、前科が付くこともありません。
5.交通事故が刑事事件になったら弁護士にご相談を
交通事故が刑事事件になった場合、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すると、被害者とすぐに交渉して示談の成立を目指してくれます。
示談が成立すると、次のようなメリットが期待できます。
- 逮捕・勾留された場合に、早期に身柄が解放される
- 不起訴処分により前科がつくのを回避できる
- 有罪判決を受けても、執行猶予処分など刑罰が軽減される
自分で被害者と交渉したり、保険会社に任せたりすることもできますが、次のような注意点があるので、不安な方は弁護士への相談を検討しましょう。
5-1.任意保険に未加入の場合は自分で交渉する
任意保険に加入している場合、交通事故の被害者との示談交渉を、保険会社を通じて行うケースが少なくありません。
任意保険に加入していなければ、加害者自身が交渉することになります。
しかし、加害者が被害者に交渉を求めても、怒りや悲しみにより応じてもらえる可能性は低いでしょう。
たとえ交渉に応じてもらえたとしても、不当に高額な示談金を請求され、示談が成立しないことも十分に考えられます。
弁護士に相談し、被害者との示談交渉を依頼すれば、加害者の代わりに弁護士が交渉するため、被害者と冷静に話し合うことが可能です。
また、弁護士は法律と交渉の専門家なので、適切な示談金額を算出し、示談の早期成立が期待できるのです。
5-2.保険会社に任せるのも要注意
任意保険に加入していても、保険会社に交渉を任せることは、必ずしも適切とはいえないことに注意が必要です。
保険会社が示談交渉を始めるのは、基本的に被害者の治療が終了してからです。
そのため被害者が大ケガを負い、後遺障害が残ったような場合、治療や交渉が長引き、示談の成立や示談金の支払いまでに数年かかることもあり得るのです。
また、保険会社はあくまでも民事上の責任として、被害者に発生した損害を賠償するために交渉を行うことにも注意しなければなりません。
この点、弁護士であれば、刑事事件の対応も踏まえ、加害者が反省していることを伝え、被害者から許し(宥恕:ゆうじょ)を得ることを念頭に示談交渉を進めます。
そして、被害者の許しを得て示談が成立したことを警察や検察官に説明するため、逮捕・勾留された場合の早期解放や、不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
さらに、起訴されてしまい、裁判で有罪となったとしても、執行猶予など刑罰の減軽も期待できるのです。
- この記事を監修した弁護士
弁護士 大橋 史典弁護士法人プロテクトスタンス所属
(第一東京弁護士No.53308)獨協大学法学部法律学科卒業 明治大学法科大学院法務研究科 修了(68期)。
弊事務所に入所後、シニアアソシエイトとして活躍。交通事故分野を数多く取り扱い豊富な経験を持つ。